短編夢

□求婚
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住まいの最寄り駅まで帰って来た私と彼は、頻繁に利用するスーパーにて買い物を済ませて帰宅した。


「どう?久しぶりの我が家は」

「落ち着くな」

彼でもそんな風に思うのかと、意外に感じた。


「お風呂、入っちゃう?」

「片付けをしてしまう。それに郵便も溜まってるしな」

「そうね」

彼が片付けをしている間に私は料理をしてしまうとしよう。





「やっぱりお前は凄いな」

「何で?」

「片付けしてる間に飯が出来てる」

料理自体好きなのだからこれくらい苦ではない。それに彼が食べたいと言うのだから俄然やる気が出る。
それに半年もの間、空席だった向かい側の席に彼が座ると幸せに感じた。食事に箸を付け、すぐに口へと運ぶカタクリをつい見てしまう。


「美味い」

「良かった。向こうの食事は合わなかったの?」

「そういう訳じゃねえが、何年もこんな美味い飯食ってたら食いたくなる」

「ふふっ、作り甲斐あるわ」


用意した食事を完食した彼はソファーに座って目を通しきれてなかった郵便物を見ていた。食器の片付けを済ませた私は冷蔵庫を開ける。



「デザートにシュークリーム食べる人」

と、声を掛けると控えめに手を挙げている彼がいた。お互いに甘党なのも昔から変わらない。


「美味いな」

「うん」

口の中にホイップ&カスタードクリームが広がる。私が食べ終わる前に食べ終わった彼は、部屋の方へと消えていった。そして、私が食べ終わった頃に戻って来た。


淡い水色の包みを持って。


「土産だ」

「え?なになに??」

ソファーに隣り合わせで座った彼から渡された包みを開けると、両の掌に乗るサイズのシンデレラの硝子の靴を模した置き物が出て来た。



「何これ、凄く可愛い」

けれど、その靴の中はクッションのようなものが詰まっていて何故か中央に割れ目もある。


「これ、何?裁縫用の針とかマチ針刺す奴?」

「マチ針なんか刺すな」


あ、違うんだ。


「分かんねえか?」

「分かんない」





「コレで分かるだろ」

ズボンのポケットから何やら取り出した彼は私が持っていた硝子の靴のクッション部分に何か嵌め込んで手を放した。

嵌め込まれたのはダイヤモンドと思われる宝石の付いた綺麗な指輪。

これを見たら私だってさすがに気付いてしまう。


「何これ・・・綺麗」

「お前のために選んできた」

隣にいた彼が更に距離を詰めて私を抱き締めてくる。




「シェリル」

力を緩めて少しだけ距離を取った彼はの表情は真剣なもので、私はとても緊張した。







「俺と結婚してくれ」



彼のその言葉に舞い上がりそうになる気持ちを抑えつつ、私は彼に抱き着いた。


「ありがとう、私もカタクリと結婚したい」

「ずっと傍に居てくれるか?」

「うん。ずっと一緒にいる」

幸せ過ぎて口元の緩みが抑えられない。
彼に抱き締められ、体を離すとカタクリは私の指に指輪を嵌めてくれた。


「ありがとう、凄く嬉しい」

私には勿体無いくらいの指輪が指で輝いている。指に嵌められた指輪を眺めていると彼の手が肩に回され、顔が近付けられ私は目を閉じた。一度キスをしただけで胸がいっぱいになっていく。


「幸せ」

思わず呟くと、彼に頭を撫でられた。




「お前、明日休みだったよな」

「そうだけど。カタクリは?」

「休みだ。だから今晩は半年分、な」

耳元で囁かれると身体がゾクッとした。
横から軽々と抱き上げられ、私が驚いていると額にキスをされる。



「カタクリ、愛してるよ」

「先に言うな」

「ふふっ」

「愛してる」





みんなに報告しなくちゃ


結婚することになりました、て。








(明日、婚姻届貰いに行くか)
(早くない?)
(親公認なんだ、誰も文句言わないだろ)
(それもそうね)



(2020.6.27)
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