短編夢

□求婚
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※学パロから成長した二人
※お互い社会人



『求婚』



まだ結婚しないの?

と、周囲からよく言われる。
結婚願望が無いわけではない。
学生の時から交際している彼のことは変わらず好きだし、この先の将来も一緒に居たい。

けれど、お互いに“結婚”に関して話すことがないまま今まで過ごしてきた。

というか、今の状態が落ち着き過ぎていることが要因かもしれない。
結婚していなくても傍にいられるから。



「ただいま」

郵便物と買い物袋を提げて誰もいない我が家に声を掛ける。部屋の電気を点ければいつもの光景が見えてきた。鞄と買い物袋を床に置き、郵便物を私宛と彼宛のものと仕分けておく。

私と彼は只今、同棲中。
しかし彼は現在、仕事で海外出張中。半年も離れて過ごしている。

広い部屋で一人、テレビの電源を入れて歌番組を流しながらパパッと作った夕飯を口へと運ぶ。一人で食べる食事はつまらない。彼と二人で食べる愉しさを知っているから余計にそう思ってしまう。

だけど、こんな日も来週でおさらばだ。
来週末に彼が帰って来る。再会が待ち遠しくて思わず顔が緩んでしまう。彼が帰国する日は前もって非番にしているので、彼が喜ぶような手料理を振る舞うつもりでいる。

早く会いたいな・・・。


ーーーー


彼が帰国する前日。
私は早出にも関わらず気合が入っていた。


「今日は凄い元気ね」

「明日休みだから」

同僚とそんな話しをしながら作業を進めていく。


「ダーリンと久しぶりに会えるからじゃなくて?」

「・・・何で知ってるの?」

「プリンちゃんに聞いたから」

視線を横に向けると、職場の後輩で彼の従兄妹であるプリンは慌ててそっぽを向いて自分の仕事をしていた。


「集中したいから今その話は厳禁ね」

「はいはい」

大事なウェディングケーキが歪むわ。

ちなみに、私は結婚式場専属のパティシエとして働いている。




「お先に失礼します」

本日の仕事も終わり、今日の夕飯について考えていると後ろから同僚に声を掛けられた。


「ねぇ!今日食べに行かない?」

「行く」

ちょうど夕飯のメニュー決まってないし。
同僚と何を食べようかと話しながら歩き、施設の外に出た。その時、急に同僚が足を止めて私の肩を軽く叩いた。


「あそこにいるの、彼じゃない?」

「え??」

同僚が見ている方を見れば、明日帰国するはずの彼が大きなスーツケースを引きながら此方へ歩いて来るではないか。


「食べに行くのはまた今度ね。お疲れ様」

そう言って離れていった同僚に挨拶するのを忘れるくらい私は驚いていた。


「・・・おかえり?」

「ただいま」

この声は間違いなく本物のカタクリ。



「帰って来るの明日じゃなかった?」

「向こうの天気が明日から荒れるらしくて、その前に帰国を早めてもらった。悪かった、連絡しなくて」

「カタクリのことだから時差のこととか気にしてたんでしょ」

「驚かせたかったのもあるがな」

離れていたせいか並んで歩くことが嬉しい反面、少しだけ恥ずかしく感じた。


「ねえ、夕飯どうする?食べて帰る?」

駅も近いため飲食店はあちこちにある。前に同僚と行った美味しいお店だってこの近くだ。
隣を歩く彼は黙って歩いている。彼の顔を見ると何か言いたそうにしているのが分かった。


「シェリル、疲れてるか?」

「え?どうして?」

「お前の手料理が食いたい」

そんなこと言われたら、疲れが吹っ飛ぶわ。


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