短編夢

□席替え
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※学パロ


『席替え』


帰りのHRで担任の教師から席替えをすると告げられた。クラス委員が前にでて黒板に白いチョークで表を描き始めたのを見ながら、スマホを引き出しで隠しつつ操作する。


「私、この席で良いんだけど」

「ああ、このままでいい」

隣でカタクリが長い脚を組み替えて少し怠そうにしていた。私たちは現在一番後ろの席なのだ。先生から目が届きにくいこの位置は良好な席であるのに、席替え?やだやだ。
クラス委員は籤を教卓に用意し、出席番号順に引いてくれ、と呼んだ。黒板に記された表にランダムな数字がマスに書かれていた。
スマホの操作をやめて引き出し内へそれを置いた私は椅子ごとカタクリの方に寄り、彼の逞しい筋肉質な太い腕に自分の腕を絡める。


「カタクリの近くが良いわ」

「今日の運が良ければいいな」

「今日の占い最下位だったんだけど」

運気アップに右脚から靴下履いたけど効果あるのかしら、とカタクリに言えば鼻で笑われた。


「んなことで運気回復するなら世の中の人間みんな幸せだろ」

「違いないわ」

でも、何故か占いを意識してしまう私はあのコーナーが好きなんだろうなぁ。
何て思っているとカタクリの前の席のマルコが振り返って私たちを見てきた。


「何?」

「イチャイチャしてないで籤引きに行けよいっ」

「もう順番来たの?」

早く行け、と促され私は机と机の狭い通路を通り教卓の前まで出た。書かれた数字が分からない様に小さく折られた籤を指で摘み取る。いや、これじゃないな、と直感し自分から一番遠い位置にある籤を選んだ。
まだ籤を見るなと担任に言われ、私は指で持ったまま席へと戻った。そしてクラス全員が籤を引き終え、籤を開き見る許可が出され白い紙を開く。


「29」

表を見て29を探し私は顔を顰めた。
引き直すんじゃなかった、と激しく後悔する。だって、これ最前列の教卓の真ん前だもの。好きなアーティストのライブの最前列なら大喜びするところだけれども、これは無いわ。絶叫マシンの最前列、水濡れ回避不能のイルカショーの最前列並みに嫌。否、でも、イルカショーには絶対にレインコートとバスタオル持って行くわ。
最前列でもカタクリが隣ならやっていけるけどね。

「カタクリ何処?」

「そこ」

彼が指差すのは廊下側の最後列。


「・・・遠距離」

「シェリル、何処だ?」

「教卓の前」

悲しい。寂し過ぎる。
席を確認したら移動開始、と言われたが動く気にならない。


「何してんだ?早く動けよい」

「マルコ、何処?」

「あっち」

マルコが指差すのはカタクリの隣に位置する席。


「マルコ、変わって。あんな席嫌だわ。目の前に立つ先生が女性ならまだしも、HRの度にあんなだらし無いボディの先生が私の眼前に立つなんて嫌よ。憂鬱でしかないわ。まあ、例えカタクリ並に鍛え抜かれた身体になっても興味関心一切湧かないけど」

「もう少し声量抑えろ。先生に聞こえてるよい」

「何で先生泣いてるの?」

クラス委員に励まされてるのはどうして?


「シェリル、早く移動しろ。そして、先生の前でとりあえず不満を漏らすな。とりあえず、作り笑いしておけ」

「憂鬱だけど、仕方ないわ」


「先生のメンタルが心配だよい」

マルコがぼそっと何か言っているけれど、皆が机を移動させる音でよく分からなかった。カタクリから離れるのは寂しいけれど、我慢よ、我慢。


「カタクリ、浮気しないでね」

「安心しろ、お前一筋だ」

やだ・・・素敵!
カタクリの言葉に頬を熱くして感動しているとマルコが呆れたような顔をして私の横を通り過ぎた。
心の底から渋々と机を動かす。新たな席までやって来た私は席に着き黒板に書かれた表を見て溜息を吐く。こんなに前じゃスマホも構えない。頬杖を付いて胸元に流れる髪の毛先を弄っていると、ふわりと良い香りがして来る。素早く右を向くとピンク色の髪が特徴のクールビューティーなレイジュちゃんがいた。

「隣、よろしく」

「よ、よろしく」

か、可愛い!なんて綺麗な微笑みなの!!
ふと、左を向けばこれまた黒髪美人のヴィオラちゃんがいた。にこっと優しい笑みを向けてくれる彼女に私の心臓はドッキドキである。後ろにいるカタクリの方を向こうと振り返ると私の真後ろには自身のネイルの具合を見つめる緑髪の美しいモネちゃんがいるではないか。


「先生」

「な、何かな?」



「今までの非礼を御詫びします」

美人に囲まれた私は、明日からまた頑張れます。




「カタクリ!どうしよう!美人に囲まれて授業に集中できないわ」

「このクラスにお前以外に美人なんて居たか?」

「視力検査いく?」

「行かねぇ」



(2021.7.29)
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