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□第2話
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滑らかな泡が立ち込める浴槽に浸かる私はカタクリに背を預けリラックスしていた。能力者である彼は彼で脱力していて、“おやつの時間”並みに緩んでいる。この姿を間近で見れるのは私だけなので正直嬉しい。
「何ニヤけてんだ」
「ん?いや、カタクリ若いなぁって思って」
「若くねぇ。もう36だ」
「私から言わせれば“まだ36”よ」
私は現在、186歳。
人間の彼からすれば有り得ない数字だろう。そして、私が見た36歳はひよっ子だ。カタクリにはとても言わないけれど。
「カタクリもあと100年くらい生きられればいいのに」
「100年は無理だ。まぁ、あと50年生きられれば良い方だろ」
「50年?・・・少な」
吸血鬼である私は恐らくあと100年は裕に生きられる。しかし、人間と吸血鬼は寿命が大きく違う。
「あと50年しか一緒に居られないなんて、嫌」
両親が居なくなった時に感じたあの孤独をまた味わうのかと思うと胸の奥がズキズキと痛む。
俯く私をカタクリは後ろから優しく抱き締めてくれた。
「寂しがり屋だな、シェリルは」
「それだけカタクリのことが好きなの」
「お前なぁ・・・」
「ふふっ」
好きな人と同じ時間をもっと一緒に居られたらいいのに。
彼が居なくなったら、たぶん私はこの世界に居たくなくなるに違いない。
──・・・
「朝帰りですか?」
お風呂に入ったあと、バスローブ姿で自室へと戻った私を出迎えたのは絨毯のホーミーズのラビヤン。このやり取りはもう何度したことだろう。
「はい。朝帰りのシェリルですよ」
手をヒラヒラと振り、ベッドへと横になる。
「ラビヤン。9時になったら起こして」
「了解です」
ラビヤンは返事をしたあと部屋から出て行った。カーテンを締め切った薄暗い部屋に一人となった私は布団に潜って自分のお腹に手を当て眼を閉じる。
「できたかな・・・」
私の小さな呟きは静寂へと消えていく。
あの日から、あの子を失った日から私とカタクリの間に子どもはできていない。
子どもを亡くしてから初めてカタクリと情事を行おうとした際、私は彼を拒んだ。また子どもを失うかもしれないという恐怖から私たち夫婦は一時期セックスレスになった。数年でそれは解消したけれど、今度は子どもを授かれなくなった。自分にはもう子どもが出来ないのだと思い込み、精神的に病んでだ時期もある。子どもが出来ない私に反して、ママは毎年のように子どもを授かっていた。新たな家族の誕生を喜んであげたいのに喜べない自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
そんな私の隣にカタクリはいつも居てくれた。
彼が居なかったら私の精神は狂っていたに違いない。
*