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□第9話
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飛んだ先に見えたのは、屋上にいるカタクリやその兄弟たちに向かって手を大きく振り被ったあの女吸血鬼の姿。私は、スピードをそのままに彼女の背に蹴りを入れる。私の蹴りをまともに食らった女吸血鬼は屋上の壁にぶち当たり床に倒れ込んだ。その隙に私は彼等が囲む木箱の傍に下りた。
「ちょっと退いてなさい」
箱の上蓋に手を掛けた私は力の限りそれを持ち上げようとした。なのに、開くどころかびくともしない。
「いけっ!シェリル姉!!」
「シェリル姉、頑張れ!!」
弟たちの声援を受けるけれども・・・
「カタクリ、女の子たちは?」
「連れて来てない」
「男の野太い声じゃ力出ないわ」
「「「差別っ!!?」」」
どれだけ力を込めても箱は開かない。
「無駄よ」
前髪を掻き上げ、服に付いた汚れを払いながら一歩ずつ近付いて来る女吸血鬼に男たちは身構えている。鋭い視線を私に向けたまま口角を上げた彼女は、小さく笑った。
「簡単に開かないように術を施してあるわ」
「っ!!」
ゴッ!!!
武装色を纏わせた拳を渾身の力を込めて振り下ろす。それでも開かないことは分かっている。けれど、今此処で諦めたくない。
「見苦しいことするのね」
「見苦しいのは貴女の方でしょっ!!」
振り下ろした拳をもう一度を振り下ろし、私は彼女を睨んだ。
「こんな術を使って父様を甦らせても、父様は喜ばない!!言いたいことがあるなら何で生きている時に言わなかったのよ!!」
「・・・・・・」
忌々しい物を見るかのように彼女は私を見ている。私は、怯むことなく彼女を睨む。
「“幸せだった”って」
「・・・」
「父様は最期に言ってた。灰になって消える瞬間までずっと、ずっと笑顔だった」
「・・・」
黙り続ける彼女は瞳を伏せてから、何処か遠くを見るように暗い夜空へ視線を向けていた。
「父様のことを今でも愛しているのなら、死んだ父様の命を翫ぶのはやめて」
「無理よ」
再び私に向けられた金色の瞳は、真っ直ぐと私を見据えている。
「300年。私は、世界中を旅してきた。全てラウル兄様に会うために。馬鹿馬鹿しいと思うでしょ?でもね、それだけあの人は私を魅了した。心の底からこの人の隣に居たいと思った」
澄んだその瞳は意志の強さを孕んでいた。
「自分自身のために諦めたくないのよ」
「・・・そう」
私は、身を屈めて木箱に両手をかけた。
「何してるの?」
「此処で戦うと、私の家族を巻き込んじゃうから」
怪訝な表情をした彼女に私は笑って見せた。
グッと力を加え、木箱を持ち上げた私をその場に居た全員が視線を向けている。
「おい、シェリル・・・」
私が何をするのか分かっているカタクリは困惑している。
「ふふ、落っことしちゃえ」
私は屋上から木箱を空中へと放り投げてやった。
「なんてことをっ!!」
女吸血鬼の表情が一瞬で焦り出し、落下していくであろう木箱を追うため飛び上がった。
それに続くように私も空中へと浮き上がる。
「それじゃあ、また後でね!」
「お前って奴は」
「豪快だな・・・ペロリン」
「姉貴らしい」
呆れた様子で見てくるカタクリとその兄弟たち。私は女を追い、下へと急いだ。
*