短編夢
□6月の花嫁
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ーー5日後ーー
「シェリル様。ラウル様がお着きになられました」
「じゃあ予定通りにお願い」
「かしこまりました!」
大広間から颯爽と出て行ったピンキーを見送った私は妙に緊張していた。
「シアン、変じゃない?」
「大丈夫です。とてもお綺麗ですよ」
傍に立つシアンは笑顔でそう言ってくれた。
今まで準備してきたこの計画を披露する日となり私は朝からずっと緊張している。
ああ、もうすぐ父様が部屋にやって来る。聴力と見聞色でそれがすぐに分かってしまう。私は深く深呼吸をしてその時を待った。
「やあ、シェリル・・・え?」
扉が開き、父様が私に声を掛けようとしてから数秒間部屋に沈黙が流れる。
「何、してるの??」
私の姿を凝視している父様はとても驚いていた。
「前に私の晴れ姿見たかった、て言ってたから」
「それで・・・」
口元を手で覆った父様はその場から動かずにウェディングドレスを纏った私を見ていた。
「すごく綺麗だ」
父様に笑顔で言われた私は顔に熱が集まっていくのを感じ下を向いた。
「結婚式の時に着たのと全く同じドレスじゃないんだけどね」
「とても綺麗だよ。すごく似合ってる。・・・ねえ、カタクリくん?」
・・・・・・!?
き、緊張し過ぎて気付かなかった。
両開きの扉の片側が開いて、カタクリが気まずそうに顔を覗かせている。父様とシアンとピンキーはのほほんと笑っているけれど、私はまた恥ずかしくなってきた。
「忙しいから来ないって言ってなかった?」
「忙しくなくなったから来た」
来ないと思って気抜いちゃったじゃない。
コンコンとノックされた扉から使用人がやってきた。
「シェリル様、写真屋の方が来られました」
「ええ。お通しして」
「畏まりました」
一礼して出て行った使用人はすぐに写真屋の女性を通し、自分の持ち場へと戻っていく。写真屋は丁寧に挨拶を済ませて撮影の準備を始めた。
「写真も撮るのかい?」
「最初はいらないと思ってたんだけど・・・一枚くらい残しておきたいなぁと思って」
一生に一度のワンシーンだから。
それに今後ウェディングドレスなど着る機会は絶対にないだろう。絶対。
撮影の準備が整い、私は立ち上がった。
「ほら、父様」
「僕?僕よりカタクリくんと撮りなよ」
「いいから、はい!立って」
父様の手を強引に引いて立たせた私は撮影位置までシアンに補助をしてもらいながら歩く。カタクリは壁に寄り掛かってその様子を見ている。
撮影位置に立つとシアンはささっと離れ、写真屋の女性は私のドレスの裾を整えてから私と父様に立ち方を指導してカメラの位置まで下がっていく。
「こんなことならスーツでも着て来るべきだったよ」
「いや、今のままで十分よ」
医者故に普段から綺麗めな格好をしているのでスーツでなくても全く違和感ない。
カメラの準備の出来た女性は私たちに声を掛け撮影が始まった。笑えと言われてもなかなか笑えずにいる私に父様は小さく笑う。
「顔が硬いよ」
「何でそんなにニコニコ出来るの?」
「ん?綺麗な花嫁さんがサプライズしてくれたからだよ」
「・・・余計に笑えないじゃない」
「ははっ。・・・今日はありがとう」
「どういたしまして」
*