短編夢
□勘違い
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※カタクリ視点
『勘違い』
ある連休明けの肌寒い朝。
俺は彼女であるシェリルの手を引きながら学校の屋上へと上がった。
やや荒く開けた扉をまた強い力で閉めてからシェリルの方を向き睨んだ。
「話って、何?」
シェリルもまた俺の方を鋭い目付きで見ている。
此処へ来る間、色々と俺に質問を投げ掛けていたが、俺はそれを全て無視して来た。それに対してご立腹なのだろうが、俺もまたシェリルに対して腹を立てているのだ。
「お前、一昨日、何処で何してた?」
「一昨日?」
シェリルの目付きが少し和らいだように見えた。俺は鋭い視線を向けたまま腕を組んだ。
一昨日。
俺はシェリルに会わないかと誘った。しかし、シェリルは大事な用があると俺の誘いを断った。その時は大して気に留めることはなかったが、買い物へ出掛けた際に俺は見てしまったのだ。
「お前、男と一緒にカフェに居ただろ」
それも、年上の品の良い顔の整ったスーツ姿の男と。
あれを見た瞬間、自分の頭の何処かで硝子が豪快に割れた音がした。シェリルが浮気などする訳ない、と俺は自分に言い聞かせた。しかし、親しげに話す様子とシェリルの笑顔を見ていたら急に良くない想像が膨らみ、腹が立ってきてしまったのだ。
俺よりもあの年上の男の方に会いたかったのだろうか?と。
「ひょっとして・・・」
シェリルは制服の上着からスマホを取り出して何やら操作を始めた。
「この人のこと??」
俺の方へ画面を向け、画像を見せてくる。その画像は俺が見たあのスーツ姿の男で間違いなかった。
「誰だ、これは?」
「父様」
・・・・・・っ!?
「一昨日、海外出張から帰って来たの。それで、駅まで母様と迎えに、」
「お前一人じゃなかったのか!?」
「貴方が見た時、たまたま御手洗いに行っていたんじゃないかしら?」
よくよく考えれば、シェリルの父親とは面識がない。母親とは何度か会ったことはあるが。
・・・そういえば前に父親が長期の海外出張から帰って来るとか何とか言ってたような。
「私のこと、疑ってたのね?」
シェリルの冷たい視線に俺はコンクリートの床に視線を落とした。
「悪い」
「手、ちょっと痛かったんだけど」
「すまん」
教室から此処へ来るまで俺が掴んでいた方の手を反対の手で擦ったシェリルはムスッとした表情で俺を見つめてくる。
「私を疑うなんて酷いじゃない。それに、話し掛けても無視するし」
「悪かった」
「私はカタクリだけなんだから」
ギュッと抱き着いてきたシェリルの背に手を回し俺は抱き締め返す。
「すまねぇ」
「許さない」
キッと、睨んできたシェリルに一瞬怯んだが次の瞬間、それはすぐに和らぐ。
「いっぱい優しくしてくれなきゃ、許さない」
俺の上着を掴みながら上目遣いで見つめてくるシェリルに胸の鼓動が速まる。
「お前、朝からそんなこと言うな」
「カタクリが勘違いするからでしょ」
「お前が好きで堪んねぇんだ」
「もう」
それから、予鈴が鳴るまで二人きりで屋上で過ごし手を繋いで教室へと戻った。
今回の勘違いで自分がどれだけシェリルを想っているのか再確認した。
(そうそう。父様がカタクリに会いたいって言っていたわ)
(俺に?)
(ええ。恋人がいるって話したら、家に連れておいでって)
(・・・今から緊張しちまう)
(2019.10.13)