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□プロローグ
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◆◇プロローグ◇◆
此処は、“偉大なる航路”の海の上。
満月の明かりに照らされた海面には、原型を留めていない船の残骸がプカプカと浮いている。
「・・・おのれェ!」
残骸の上に佇む一人の男が歯を食い縛り、身体から黒煙を上げながら力強く拳を握り締めていた。
羽織る白い上着のその背には“正義”の文字。
「吸血鬼がぁ!!!」
───・・・
「ただいま」
満月の下、私はボロボロの装いで船に帰還した。
「早く着ろ」
「ありがとう、カタクリ。準備万端ね」
カタクリから上着を手渡され私はすぐにそれを羽織った。船員たちは皆、私に背を向けて立っていて、なかなか面白い光景となっている。
「あ、みんなもうコッチ向いていいわよ」
私が声を掛けると、みんな自由に動き始め各々の持ち場へと戻っていった。
「シェリル姉、ボロボロじゃねーか」
カタクリの横へやって来たオーブンが私を珍しそうに見下ろしていた。
「身体は治癒出来ても、服は元に戻らないからね。それに、あの大将の能力とんでもない」
「それで、奴はどうしたんだ?倒したのか?」
「いいえ。今頃、一人寂しくお迎えが来るの待ってるわよ」
「船、ぶっ壊したのか」
「当然。あのマグマ男、私の服を台無しにした上に、化物呼ばわりしたの。だから、一撃で破壊してやったわ」
「「(・・・一撃)」」
それにしても、喉が渇く。
「ねえ、カタクリ。お願いが、」
「分かった」
返事がお早いこと。
船をオーブンに任せ、私とカタクリは自室へと戻る。
扉に鍵を掛け、ソファーに座ったカタクリへと歩みを進める。首に巻かれたファーを外すカタクリを見て、つい唇を舐めてしまう。ソファーへと上がりカタクリの首筋に顔を寄せ、うっすらと見える血管に指を這わす。
「美味しそうな血管」
口の端を一舐めして、血管を凝視しているとカタクリの視線が私へと向けられた。
「早くしろ、」
「“ただし、吸い過ぎるな”でしょ」
私はカタクリに笑って見せた。
すると、
「お前は、“いただきます”と手を合わせる」
と、未来(さき)を見られてしまう。
「ふふっ♪正解」
私は手を叩いて、カタクリの頭を撫でた。
「いただきます」
血を戴くのだから敬意を示して合掌し、彼の首筋に鋭く伸びた八重歯を突き立てた。吸い過ぎるな、と言われたけれど私にとってこの瞬間は至福の時間の為、夢中になってしまう。
「シェリル」
名を呼ばれ肩を押された為、私は名残惜しく思いながらも八重歯を抜いた。すると、八重歯が刺さっていた4箇所から今にも血が流れそうになっていたので、私は急いでそこへ舌を這わせ血液を舐め取り喉の奥へと流し込んだ。
「はぁー、美味しかった」
傷口に指を這わせて4つの傷を消し、カタクリに身を寄せる。
「ありがとう。もう大満足」
「満足と言いながら、俺が声掛けなかったあのままずっと血を吸ってたろう」
「え?だって、カタクリの血凄く美味しいんだもの」
「あんまり吸われると動けなくなる」
「だって・・・」
吸血鬼ですから。
唇に付いていた血を舐め取り、私はにっこりと笑った。
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