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□第1話
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◆◇第1話◇◆


─ホールケーキアイランド・港─

半年ぶりに帰って来た万国。ジリジリと照らす太陽の下、日傘を差し、サングラスを掛けて甲板へと出る。


「眩しい」

寝起きの私には辛い朝だった。サングラス越しでもとても眩しく感じるほどの太陽光にテンションが一気に下がっていく。カタクリに呼ばれ、船から降りると周囲からたくさん名を呼ばれた。

「シェリル様ー!!」
「キャー!シェリル様!!」
「今日も素敵!」
「シェリル様、美しいわ」

若い女の子たちの声に私は微笑んで手を振った。下がっていたテンションがぐっと上がっていく。

皆なんて美味しそ、じゃなくて、可愛いのかしら。

男たちの声も聞こえたけれど、カタクリが視線を向けた途端にそれは止んだ。私は小さく笑いながら彼の隣を歩き、豚車へと乗り込んだ。私とカタクリを乗せた豚車はママの居城を目指して動き始めた。



「変わらないわね、此処は」

「それはお前もだ。8年前と変わらない」

「不老長寿だもの。外見は永久の22歳」

吸血鬼である私は外見年齢が変わらない。人間であるカタクリの生き血を吸い続ける限り死ぬまで老いることがない。





「ハーハハハママママ〜♪よく帰って来たね!お前たちの帰り、待ってたぜ♪」

ママは私たちが持ち帰った幾つもの宝箱に上機嫌だった。頬を桃色に染め、うっとりとした表情をして宝箱を見つめている。


「宝箱がどんどん増えていくぜ♪」

「一週間後のお茶会でも沢山戴けるものね」

「マーマママ♪んもう、楽しみだ!」

高らかに笑うママに私は少し呆れてしまう。カタクリは表情一つ変えずに玉座に座るママを見ていた。


女王の間をあとにしてカタクリと共に階段を下り廊下を進んでいると、廊下の奥に小さな影を見つけた。その小さな影は廊下の角から私たちを覗き見ている。視力の良い私にはそれが良く見えるのでつい笑ってしまう。


「可愛い♪」

「笑ってないで行ってやれ」

「ええ」

私は廊下の奥を見、床を脚で蹴った。



「プリン!」

「きゃっ!?」

私は自慢の俊足で小さな影の後ろに回って背後からぎゅうっと抱き締めた。その途端、可愛らしい悲鳴があがりその愛らしさにまた頬が緩む。私たちを覗き見ていた影、それはシャーロット家35女のプリン。カタクリの異父兄妹である。
抱き締めていた手を離し、幼い彼女の柔らかな栗色の髪を優しく撫でてあげた。


「待っていてくれたの?」

「うん!」

くりくりとした大きなどんぐり眼に見つめられ、その可愛らしさに私は顔の筋肉がゆるゆるになっていく。


「もー!可愛いプリン!!」

堪らず正面からプリンを抱き締めると、彼女も私を抱き締めてくれた。

あぁ、癒される。

近付いて来たカタクリは私とプリンの傍に立ち止まって見下ろしていた。彼が言いたい事は分かってはいるが久しぶりに可愛い妹に会えたので離れ辛い。


「また何時でも会えるだろ」

「そうだけど・・・」

屈めていた身体を起こしてカタクリを見上げているとプリンが私の脚に手を置いてきた。視線を下にやるとプリンは明らかに寂しそうな顔をして私を見上げている。

・・・か、可愛い。

こんな顔をされたら余計に離れたくない。

いっそプリンを連れて帰ろうかしら?
いや、カタクリに却下される。


「プリン」

身を屈めてプリンと視線を合わせる。


「今日はもう帰らないといけないの。だから明日、一緒にお茶しましょ」

「ほんと?」

「ええ。プリンの好きなお菓子用意してあげるからね」

「うん!」

寂しそうにしていたプリンの表情が一転して笑顔になった。普通に可愛い子がとんでもないくらいに可愛い。

プリンとお別れをし、再びカタクリと共に廊下を進んでいく。


「あー、プリンはなんて可愛いの!可愛過ぎ!」

「少し落ち着け」

「プリンのあの可愛さ見た?もう堪らないわ。今であの可愛さだからあと12、3年したら凄いことになるわよ。今後の成長が楽しみね♪」

「(・・・プリンが喰われる)」


顔がニヤけるのを必死で抑えながら、私たちは城を出た。


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