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□第5話
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◇◆第5話◆◇


お茶会の前日。
ホールケーキアイランドの港に到着した私とカタクリは、賑やかな街を抜け真っ直ぐ城を目指す。お気に入りの日傘を差し、今日は歩いて城へと向かう。


「いいお天気ね」

「今日は歩きたい気分だったのか」

「ええ。日差しも柔らかいし、お散歩日和だし。ごめんね、付き合わせて」

「別にいい。お前を置いて俺だけ先に城に行くなんて出来ねぇ」

「ふふ、ありがと」

後ろから街の住人たちの熱い視線が私たちに向けられていることに、カタクリも気付いているらしく僅かに後ろを気にしている。スイートシティの人達が私たちを見るのはごく稀な為、みんなじっくりと見ていた。


「見世物じゃないんだけどね」

「1週間前にも来たしな」

城に着いてから私とカタクリは同じ部屋へと向かい、先に運び込まれていた荷物のチェックをした。
明日のお茶会で着る予定のドレスも靴も、カタクリに貰った髪飾りもちゃんと部屋に届いていることを確認し、一息つく。


「全部あったか?」

「ええ。全部揃ってる」

おやつの時間までまだ時間があるし、このあとは特に予定もない。


「ねえ。図書、」

「ダメだ」


“図書室”と言い終わる前にカタクリに反対されてしまった。腕組みをしてどっしりとソファーに腰掛けるカタクリの表情は明らかに不機嫌だ。


「ダメ?」

「ダメだと言っている」

「ちょっとだけ」

「お前なぁ・・・」

「一人じゃなかったらいい?」

カタクリは呆れたような眼をして浅く溜め息を吐いて立ち上がった。


「3時までに戻るぞ」

「ふふ。ありがとう」



──図書室──

図書室の大きな扉を開けると、室内は標本として綴じられている珍獣たちの声があちこちから聞こえるため、私は手で耳を押さえた。


「もう、みんなそんなに鳴かないで」

吸血鬼である故に人間の何倍も聴力が良い私には珍獣たちの鳴き声がなかなかの騒音に聞こえてしまう。それに、見聞色で無意識に動物たちの気持ちが分かってしまうので長時間はこの場に居れそうにない。



「シェリル?」

一冊の本から声が聞こえる。
声がした大きな本を手に取り、あるページを開くと紫色の瞳と目が合った。


「こんにちは、ジーク兄様」

8年前の襲撃以来、拘束されこの本に囚われた腹違いの兄。父様にそっくりな容姿をしているがアメジストの様な瞳の色と泣き黒子だけは違う。


「相変わらず可愛いね、シェリルは」

にっこりと妖艶な笑みを浮かべた兄様に私は苦笑いした。


「ああ、なんだ今日は旦那も付き添いなのかい?」

「ええ。一人じゃダメって言われたの」

「ふーん。男の嫉妬は見苦しいね」

嫌味たっぷりな笑みを浮かべた兄様に対して、カタクリは鋭い目付きで彼を見下ろしている。


「今日は城で何かあるのかい?バタバタとうるさいけど」

「明日、お茶会があるの」

「あぁ。だからリンリンもご機嫌なのか」

「ママが来たの?」

「いや。朝から大声でホーミーズたちと歌ってたから」

ママがホーミーズたちと歌う姿がすぐに想像が出来る。


「ん?カタクリの兄貴とシェリルの姉貴か」

後方の扉が開き、モンドールがやってきた。相変わらず独特な服をお召しだこと。


「あら、モンドール。久しぶりね」

「何してるかと思ったら、そいつに会いに来てたのか」

「ええ。あ、カタクリは私の付き添いね」



「シェリル、もうすぐ3時になる」

カタクリは懐中時計で時間を確認し、部屋へ戻るよう促してきた。
そろそろ戻った方が良さそう。おやつの時間だし。カタクリの機嫌も良ろしく無いし。


「また明日ね、モンドール」

「ああ」

何か書き物をしているモンドールに一言告げると、ペンを持っていない方の手をヒラヒラと振っていた。


「シェリル、今度は一人でおいで」

「わかっ、「シェリル、行くぞ」

カタクリに手を引かれ、強引に図書室から退室させられる。




「カタクリの兄貴を挑発すんな」

「だって、面白いじゃないか」



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