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□第6話
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◆◇第6話◇◆
─ホールケーキ城内─
お茶会が終わった城内は昼間と違い、夜は静まりかえっている。警備担当の兵たちが長い廊下を巡回している時、図書室では黙々と書き物を進めるモンドールの姿があった。
「まだやってんの?」
棚に並んでいる一冊の本の中からモンドールに声を掛ける者がいる。シェリルの異母兄妹であるジークだ。
「もうすぐ済む」
「ふーん、ご苦労様。リンリンも息子遣いが荒いね」
「ママを呼び捨てするな!」
「別にいいだろ?僕は配下でも何でもないんだから」
クスクスと笑うジークに対してモンドールは苛々して小さく舌打ちをした。本の中に囚われているジークは欠伸を一つし、モンドールが苛立ちながら紙にペンを走らせる音に耳を澄ませる。
「・・・・・・??」
────・・・コツ、コツ
遠くから此方へ近付いてくる気配に気付いたジークは眼を閉じて鼻をくんくんと動かした。鼻に入ってきた吸血鬼の本能を呼び起こすかのような血液の香りに目を僅かに開く。
「おい、モンドール」
「あ?何だよ、後もう少しで終わるってのに」
「お前、早く此処から出た方がいい」
「はあ??」
───・・・コツン、コツン
益々近付いてくる気配にジークは唾を飲み込む。モンドールは何が何だかまだ分かっていない。
「血の匂いがする。それも、一人や二人の血液じゃない」
紅い眼を細め、近付いて来る何者かの方に神経を注ぐ。モンドールは完全に手を止めて出入口である大きな扉を注視している。
そして、大きな扉はゆっくりと開いた。
「・・・・・・」
モンドールは立ち上がって動く扉を見つめた。完全に扉は開け放たれたが、出入口には誰も居ない。静寂の中、モンドールは眼を左右に動かし怪しい者が居ないか神経を尖らせて警戒する。
「おい。誰も居ねぇぞ」
モンドールの問い掛けにジークは何も応えない。
「おい!ジーク!」
───・・・ふふっ
「誰だっ!?」
突如聞こえた笑い声にモンドールは辺りを見回し、警戒心を強める。
「フフッ」
「っ!?」
背後に感じた気配にモンドールは咄嗟に距離を取った。全身に言い知れない悪寒に支配され額から汗が流れる。
「こんばんは」
自分に向けて微笑む美しい女は空中で脚を組んで此方を見下ろしている。その姿は、何度も目にしたことがある義姉のシェリルと酷似していた。
女は妖艶な笑みを浮かべて本棚を指差す。
「あれ、戴いてもよろしいかしら?」
本棚に収められた一冊の本。
モンドールが女を睨み付けると、彼女は更に口角を上げ愉しそうに笑った。
*