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□第7話
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◇◆第7話◆◇
“心臓を頂戴”
対峙する彼女の一言に、私は身体中が酷く緊張していた。
「私の、心臓?そんな物を手に入れてどうするの?」
「秘密」
赤いルージュを引いた唇の前に人差し指を出した彼女は妖しく口角を上げた。
私の心臓なんかを手に入れてどうしようというのか。仮に私が心臓を取り出し、彼女に渡したとしても私は死んだりはしない。心臓はすぐに元通りになる。それに私の身体から離れた心臓はきっとすぐに灰となって消えてしまうだろう。
そんな物をどうするのだろうか?
カタクリの方を見上げれば、彼は黙ったまま首を横に降った。
「貴女、何を企んでいるの?」
私の問いに彼女は妖しい笑みを顔に貼り付けたまま、何も答えない。
「・・・?」
彼女の後方に立て掛けられている本の横に大きな木箱を見つけた。それは私くらいのサイズが寝転んで入れそうなほどの大きさに見える。
この人は何をしようとしているの?
「おい」
今まで一言も喋らなかった兄様が、本の中から声を発した。
「あんた、まさかとんでもない事をしようとしてないか」
その声色は驚くほど低く、この女性が何をしようとしているのか分かっている様子だ。女性の方は冷たい笑みを兄様の方へ向け、首を傾けた。
「吸血鬼の心臓を使う“術”なんて一つしかない。でも、それは古から禁忌の業だと伝えられてきたはずだろ?それなのに、それを実行しようなんてあんた異常だよ」
「あら?貴方みたいな坊やが知ってるなんて意外だわ。でもね、知っていたとしても貴方にはどうすることも出来ないでしょ?そこから出られないんだから」
嘲笑う女性に対し、兄様は舌打ちする。女性は私に視線を向け、目を細めた。
「貴女は知らないのね。教えて貰えなかったの?」
「・・・」
私は未だ、何のことか分からず黙り込んだ。
「あんたアホか。父上が大事な娘に“術”のことなんか教える訳ないだろ。最期の時までずっとシェリルと過ごしていたらしいからな」
女性を貶すように話す兄様に、女性は鋭い視線を向けた。
「黙りなさい」
「シェリルの心臓を使えばあんたは満足するだろうが、その後、絶対に後悔するね」
「あんたみたいな小僧に何が分かる」
「さあ?でも、僕も黙ってる訳にいかないんだよ、あんたがしようとしてる事を」
二人のやり取りを黙って見ていると、カタクリに小声で声を掛けられた。
「シェリル。あの二人は何の話をしている?」
「私にも分からない。でも、あの人がやろうとしている“術”が、かなり危険だってことは何となく伝わってくるわ」
夜特有の冷ややかな風に、緊張からかいた汗が冷えていく。
父様が私に教えなかった術て何なの?
*