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□第8話
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◇◆第8話◆◇
(※カタクリ視点)


激しい風を全身に受け、眼を閉じぬよう細めているとすぐ傍から声がした。


「戦うな、て言ってるのに。何でシェリルは聞いてくれないかな」

俺が担いでいる本の中のジークの声だ。


「おい、ジーク。あの女を止めるにはどうすればいいんだ」

空中で激しい攻防を繰り広げているシェリルと女吸血鬼は、凄まじいスピードで飛び回っている。


「朝までシェリルが逃げ切ればいいさ。そしたら、またモンドールの能力でも使って本の世界に入れれば?リンリンが喜ぶんじゃない?」

言われればそうだが、そう簡単に行くとはどうも思えなかった。


「お前、“術”について詳しいのか」

「昔、父上から聞いたことがあるだけさ。僕は興味も感心もなかったから適当に聞いていたけどね。でも、まさかあの術を使おうとしている奴がいるとはビックリだ」

「本当に甦るのか?」

「どうだろうね」

何とも適当な答えが返って来た。この男、本当に術とやらについて分かっているのだろうか。



ーーープルルルル・・・


「ペロス兄か」

「カタクリ、そっちはどうなってんだ?屋上に近付くなと言われたから近付かないようにしているが」

「今、シェリルが女吸血鬼と交戦中だ。あの女吸血鬼、昼間お茶会に財界の男の妻を装って出席していやがった」

「なに!?」

ペロス兄が驚くのも仕方ない。
騙された男も男だが、此方とて正体も知らず易易と入国させてしまったことは頭が痛い。しかも、狙いがシェリルとは。とんでもない女をお茶会に招いてしまったものだ。


「カタクリ。ついさっき、ナッツ島付近を不審な船が漂流していて船内を確認させたら、乗組員全員が死んでいたらしい」

「船の持ち主は、財界の男か?」

「ああ。かなり、悲惨なことになっていたそうだ」


「あの女の仕業だな」

ジークの呟きが耳に入り、急に体が緊張してきた。
目的を果たす為にどんな手段でも取るあの女の残虐性に不安が募る。


「それで、あの女の目的は何なんだ?」

「奴の狙いはシェリルだ」

「は?シェリル、」



ーーーー・・・ドーーン!!


ペロス兄との会話中、電伝虫の向こう側から突然大きな音がしてきた。



「ペロス兄どうした!?」



「シェリル!?」

ペロス兄の驚く声と共に外野で騒ぐ声が幾つも聞こえて来る。どうやら、ペロス兄がいる場所にシェリルが壁をぶち破って飛び込んで来たらしい。


「ペロス兄いま何処、」


「ペロス兄さん邪魔!!!」

ペロス兄の居場所を聞こうとしたら電伝虫の向こうからシェリルの怒鳴り声が聞こえてきた。その直後、金属と金属がぶつかり合うかのような激しい音が聞こえてくる。武装色を纏ったシェリルと女吸血鬼の爪がぶつかったのだろう。


「ペロス兄!今、何処だ」

「今、ママの寝室の前・・・シェリル!此処で戦うんじゃ、」


「下がって!!」

・・・・・・。

シェリルがピリピリしているのが口調から伝わってくる。
しかし、戦っている場所が悪過ぎだ。ママの寝室の前で戦うとは・・・。俺たち兄弟からしたら何とも避けたい場所だ。


「リンリン、起きてないわけ?」

「そうらしい」

「どんな神経してんの?あの女」

「・・・・・・」



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