カービィ短編
□表裏
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昼は夜、夜は昼
鏡が映すは反転世界
裏の世界が丑三つならば、
表の世界は昼の二時。
夜も更け草木が眠る刻、
黒き影が鏡の前へ
真実を映す黄金の鏡
今なら誰も起きては来まいと
影はそろりと鏡の中へ
鏡の向こうは表の世界
影は表に何用か…?
表裏
日が沈み月が上がれば良い子なガキは寝る時間。
ガ草も木も、悪人も善人も。
日付を超えて三時間も経てば、昼間も静かな鏡の国は一層淋しさを増す。
普段なら俺だって流石に寝ている。
眠れない理由は恐らく、オリジナルから伝わってくる嫌な感覚。
「(マインドの野郎も流石に寝てるだろォが…一応確認はしておくか)」
念には念を入れ、俺は屋敷の壁伝いにマインドの部屋をのぞきに行く。
─────────────
「(まァ…普通に寝てるよな)」
窓越しに寝ていることを確認し、俺はその場で羽を広げ、目的であるディメンションミラーの元へ飛んだ。
ディメンションミラーを伝えば表の世界に行ける。表と裏の通行手段として一般的に使われているから別にこそこそする必要は無いが、シャドーやマインドの奴等は面白がりだ。絶対付いて来やがる。
いつものようにオリジナルをいびりに行くだけなら構わないが、今回はそうもいかねぇ。
ディメンションミラーを伝って辿り着くのは自分のオリジナルがいる辺りで、どこでもドアみたいな役割はしてくれない。あくまでも鏡。
辿り着いたのはだだっ広い倉庫のような場所だった。物が一つ二つしか無いのを見る限り、殆ど使わない場所なのだろう。見渡した感じでは監視カメラもなさそうだ。壁も分厚く音が漏れることはまず無い。
これでは、ここに人がいるなんて誰も思わないだろう。
そんな部屋の隅でひとり膝を抱えてうずくまる影がある。入口から覗いただけでは光の入り方的に死角になる場所だ。
俺はその影に歩み寄り、しゃがんで目線を合わせる。
「メタ」
そいつは答えない。
代わりに膝を抱える力を強めて更に縮こまってしまった。
「なあ、なにがあった」
「何かされたか」
「何か言われたのか」
「メタ、泣くな」
「俺がやり返してやるから」
「泣くなよ」
「なあ、メタ、泣かないでくれ」
声をかけても、頭を撫でてもそいつは答えない。たまに鼻をすするだけ。
どうするものかといったんその場に立ち上がろうとしたとき、か細い声でオリジナルが俺を呼んだ。
「……どうした」
もう一度しゃがんで頭を撫でる。
「何でも言ってみろ」
オリジナルは言う、死んでしまいたいと。
この世から消え失せてしまいたいと。
誰の記憶からも、存在していたことすらも。
聞けばここ最近、普段押さえ込んでいる感情が全くと言って良いほどに抑えきれず、先日ついに誤って部下に攻撃をしてしまったという。
魔獣なんて嫌だ
私は魔獣じゃない
魔獣になるくらいなら殺されたい
嗚咽混じりに、駄々をこねた子供のように嫌だ嫌だと泣くオリジナルの瞳は紅く、こいつが魔獣であることを示している。
俺は思う。
この魔獣の性さえ、体さえ、この紅さえ無ければ、
こいつは泣かないですむんじゃなかろうか。
俺は仮面のないオリジナルの顔を両手で包み込むように掴んで、自分の額と合わせる。
「お前が泣くくらいなら」
「そんなに苦しむくらいなら」
「その魔獣の性も」
「瞳の紅も」
「俺がもらってやるから」
「だからもう泣くな」
「そんな悲しい顔しないでくれ」
かお
お前の夜は笑顔が似合うのに
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