長編 カカシ
□決心
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「昨日…じゃなかった。今日はすみませんでした。」
「ホントだよ、急に押し掛けてきて、勝手に風呂入ったと思ったらわんわん泣き出してさ。少しは落ち着いたの?」
「…はい。すみませんでした。」
「で、僕たちはどうして焼肉屋にいるのかな?」
「お腹が空いたからです。」
「まだ十時だ。こんなヘビーなものを食べる時間じゃないよ。」
「…お付き合い頂いてすみません。」
目が覚めたら無性にお腹が空いていて、ソファーで眠るヤマトさんを揺さぶり起こして焼肉Qに連れてきてしまった。目の前でじゅうじゅう煙を出して焼ける美味しそうな肉達は、確かにこの時間帯には不釣り合いで。
「でも、店が開いてるってことは、食べに来る人もいるってことですよ。」
「店、ガラガラだけどね。」
「…ヤマトさん。文句ばっかり言ってないでちゃんと食べて下さいよ。お肉、焦げちゃいますよ。私が全部食べちゃいますよ。」
「まぁ、むしろそうしてくれた方が僕は有難いかな。全然肉を食べる気分じゃない。」
「…女子力低くてすみませんねぇ。」
網に並んだ肉をふぐ刺しの様に箸で一気に取って自分の皿に移す。それだけ食欲あるなら大丈夫だね、とヤマトさんに嫌味を言われた。
「ヤマトさんは今日は任務ないんですか?」
「今日は一応休みだよ。まぁ任務が入ったらいくけど。それよりなつ、君、操君には挨拶しなくていいの?帰っちゃうの、明日でしょ?」
「…いいんです。今、どこにいるかも分からないですし。」
「…そう。まぁ…また会おうと思えばいつでも会えるかな。」
…会おうと思えばいつでも会える…本当にそうなのだろうか。私は忍で、滅多な事では休みを取って遊びに行くなんてことは出来ないし、操だって仕事がある。一緒になろうという誘いを断って、それでも今後頻繁に会うなんて器用なこと、多分私には出来ない…。
「ホラ、スタミナつけて、元気に行くよ!あんまり深く考えすぎないで。なつはちょっと息抜きした方がいいね。」
ヤマトさんが私の為に焼いてくれた肉をポイポイ私のお皿に入れてくれる。
「…ヤマトさんはそんなに強くて優しくて顔もいいのに、どうして彼女が出来ないんですかね。絶対ヤマトさんの彼女なら幸せになれるのに。」
「それは僕が聞きたいくらいだよ。ただ、僕は喧嘩になると絶対に折れない。あと、理詰めで相手を追い詰める。今まで大体それでお別れしてきたかな。」
へのへのもへじの女の人が、ヤマトさんの理詰めに耐えているところを想像する。
「それだ。想像しただけで怖い。」
ちょっと面白くて笑ってしまった。ヤマトさんも一緒に笑って。その顔を見た時、ヤマトさんが自虐ネタで私を励まそうとしている事に初めて気がついた。
理詰めって言ったって、本当に落ち込んでる相手にはいつも何も言わないじゃん。一緒に行動して、仲間内でのやり取りは見てきてるのでそれは知ってる。なんだかんだでヤマトさんは優しいから、みんなついてくるんだよ。
「まぁ、今は決まった相手も居ないし、君が平気なら宿代わりにウチを使ってくれてもイイよ。」
「…ありがとうございます!はい!ヤマトさんもお肉食べて!はい、あーん🖤」
「…いらない。本当に胸焼やけがする、しかも僕、軽く二日酔いなんだから。君が食べたら直ぐに店を出よう。」
「はいはい、分かりましたよ。」
そうだよね、元気出していかないと。手で口を押さえて気持ち悪がるヤマトさんを見てケラケラ笑いながら、私はお皿一杯になったお肉を幸せ一杯に頬張った。