長編 カカシ

□降りだした雨
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火影室に入ると、オフにも関わらず呼び出されたテンゾウが怨めしそうにこちらを見ていた。お前も何かと忙しいね、となだめてやる。既に部屋にはテンゾウの他に、もみじ、サクラ、いの、サイ、そしてコテツにイズモが集まっていた。

「すみません、お待たせしました。」

続いて面倒くさそうに火影室に入ってきたのはシカマルだ。
シカマルの後ろからひょっこり顔を出したのはまさかのなつだった。さっきあんな別れ方をしたもんだから何となく気まずい。なつもオレの顔を見るなり目を見開いて驚いた様子だったが、五代目に声を掛けられ、オレの横を通りすぎてゆく。

「なつ、夜明けまで仕事を頼んでいたのに、また呼び立ててすまないな。」

「いえ、カカシ先輩にも手伝って頂いて早く終わったので問題ありません。」

「そうか…。いや、操のこともだ…。明日帰るだろう?出来れば一緒に見送りに連れていってやりたかったんだが…。」

「…先程会えましたので大丈夫です。ちゃんと別れの挨拶は出来ましたので。綱手様、この度は操に色々と寛容な対応をしていただきありがとうございました。」

「いや、アイツも今まで大変だっただろうな、落ち着いたらまた会いに行ってくれ。」

「…はい。」

なつは伏し目がちに返事をする。操の気持ちはどうであれ、なつにとって操は、恋愛感情抜きでかけがえのない大切な人だったんだ。オレの不用意な発言は、なつの心をえぐるように傷つけてしまった。操が明日帰ってしまうというこの状況で、彼女は今何を考えているのか…。

「今回の任務についてなんだが、お前達、酒の生産で有名な酒道の里を知っているか?」

「はい、綱手様御用達の酒蔵がある、あの酒道の里ですよね?」

サクラが答える。さすが、普段五代目の為に色々な種類の酒の注文をさせられているだけある。

「そうだ。元々は水がキレイで豊かな所だったんだが、最近その里内で内戦が起きていてな…。一部の過激な団体が里を統治しようと動き出したらしい。里の更なる繁栄を願っての事だろうが、政策に逆らうものは女、子ども関係なく全て処罰するという、何とも一方的なものだ。」

「…新たな支配者をつくろうとしていると言うことですか?」

「そうだ。内戦が酷くなり、犠牲者も数多く出ている…。そこでだ、その酒蔵に私の旧知の知り合いがいてな、その者に医療忍術での一般人の救護活動と、保護を頼まれた。」

「それって、里内の争い事に木ノ葉の忍が荷担するような形にならないんですか?」

「あくまでこちらとしての目的は一般人の保護で、中立の立場だ。しかし片方の相手は過激組織、今までの里のやり方を守ろうとしている者達が木ノ葉の忍を雇って応戦しようとしていると捉えれば、心中穏やかではないだろうな。」

「…僕たち木ノ葉の忍への襲撃も考えられる、という事ですね。」

「…そうだ。私個人としては、今までの平和な里を取り戻してやりたいと考えている。結果的に組織を鎮圧するまでは任務は続くことになりそうだ。…お前達以外にも医療忍者と、戦闘に備え対応出来る忍を何名か送り出すつもりだが、行ってくれるか?犠牲者を増やさない為には、早く内戦を早く終わらせる必要がある。その指揮役を上忍含め、シカマルにも舵取りして貰いたいと思っている。今回はシズネも一緒に任務にあたってもらうぞ。」

「皆さん、宜しくお願いします。」

なるほど…。それでこのメンバーって訳ね。

「戦況はどうなんでしょうか?」

「過激組織と言えど忍ではない、少数と聞いている。お前達に行って貰えれば幾分か落ち着くかとは思うが、今向こうには指揮を取る者がいない。皆、自分の命を守るので精一杯と言うところだろう。」

「そうですか…わかりました。」

五代目の話を静かに聞いているなつを見る。
澄んだ目、迷いのない横顔が、オレをドキッとさせた。

「シズネさん、私達に救護の指示をお願いしてもいいですか?」

「ええ、わかったわ。宜しくね。」

「じゃあ、僕たち上忍はシカマル中心に衝突時に備えての作戦を練ろう。シズネさんは医療班として専念してもらって、サクラやなつは臨機応変に対応してね。」

こうしてテキパキと役割が振り分けられていく。そんな中、なつがポツリと呟いた。

「…いつの時代でも…豊かになると何もかも奪おうとする人が現れるんですね…。世の中の色々って、自分の両手に納まる分だけできっと充分な筈なのに…。」

両親や幼なじみ、その家族や生活を奪われたなつが口にすると、それは何とも重みのある言葉に感じた。その表情からは、これから出会うであろう酒道の里の、罪のない人達を必ず守ると言う揺るぎない決意が伝わって…。

なつ、お前は何を支えにして生きている?何も欲しがらない、欲張らない。きっとお前は、自分の中が空っぽになっても他人にまだ何かを与えようとするのだろう。

与えたい…オレが、お前に。精一杯の愛情を。

そう思った瞬間、オレはなつの腕を掴んでいた。

「え!?…か…かし先輩?ど、どうかしたんですか!?」

「なつ…ちょっと来て。」

「え…ちょ、ちょっと…っ!」

慌てるなつの腕を掴んだまま、周りの視線なんかお構い無しに、気が付けばオレは火影室を飛び出していた。
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