長編 カカシ

□番外編 ヤマトの独り言2
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まだ朝日が昇らない、薄暗く静かな時間帯だ。遅くまでカカシ先輩とゲンマさんと飲んでいたから頭が痛い。半分夢の中でベッドの上で寝返りを打った瞬間、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

あぁ、この声は…

…なつ。

ヤマトさん、ヤマトさーん!

トントン、なんて扉を叩く音をわざとらしく声に出して真似るくらいだから、一応こんな時間に訪ねて来るのはいけない事だというのは解っているようだ。

溜め息混じりに扉を開けると、上目遣いで捨てられた仔犬の様に佇んでるなつ。

入るかと聞くと、パァっと目を輝かせてお邪魔しますとなんの遠慮もなく入ってきた。

お風呂貸して下さいと言った二言目には、僕が持っている一番大きな服を貸して下さいときたもんだ。僕が着ても丈の長いTシャツがあったのでそれを渡すと、そそくさと風呂に入って行った。脱衣所の扉越しに下着はどうするのかと聞くと、忍たるものそれくらいの備えは普段からちゃんとしているので気にしないで下さい、だってさ。全く、なんて図々しいんだ。

間も無くなつは、僕のTシャツを少し短いワンピースの様に着こなして髪をタオルで乾かしながら風呂から出てきた。

温かいコーヒーを淹れてあげて、そこの椅子で飲んでいいよと促す。さっきの大きな態度から一変、ちょこんと遠慮がちに座ったなつは、フーフーとコーヒーを冷ましながら静かに飲んでいた。

こんな時間にどうしたのかと聞くと、今までカカシ先輩と、シズネさんに頼まれた資料整理をやっていたんだと言うじゃないか。

二人きりで、成り行きで?

棚からぼた餅じゃないか、何か進展はあったかと聞くと、むしろ後退しましたと呟く。
で、僕に愚痴を言いに来たのかと聞くと、むしろ聞いてほしいのはその後の事だと言う。

カカシ先輩がシズネさんに資料室の鍵を返しておくから、先に帰っててイイよと言われたらしい。何となく寂しくて、家には帰らず待機所の近くで星空を眺めていたらしい。
そしたら、もみじが現れて…どうしたのかと聞かれたので、カカシ先輩に資料整理を手伝って貰っていた事を話したそうだ。そしたら凄く嫌なことを言われてしまいまして…。と、言ったきり、なつは黙ってしまった。

誰にも言わないからと言ってごらんと促すと、持っていたマグカップをぎゅっと握りしめて、彼女は小さな声でこう言ったんだ。

"先輩の口布の下、見たことあるかって…。先輩とその…”した”時に口元にホクロがあって、凄くカッコ良かったから、ライバルのあなたに報告しておこうと思ったって。私は見たことありませんと言ったんです。そしたら、やっぱり彼の相棒になるのは私かしらって…。

そんなこといちいち言わなくても良いのに…だってもう、二人がそういう関係なのは知ってたから…。"

そこまで話すとなつはポロポロ泣き出した。ずっと泣くのを我慢していたんだろう。目と鼻が真っ赤になるくらいに泣いて、コーヒーさえ飲めなくなって。

なつが落ち着くまで僕は何も言わずに黙っていた。というよりは、何をどこから何処まで、どうやって話してあげたら良いのか僕自身分からなかったんだ。

カカシ先輩と出会う前の、ただ憧れていた頃の自分に戻りたい。

静かにそう呟いたなつの顔は疲れきっていて。

僕のベッドで良ければ使っていいよ、少し休むといいと言うと、僕はどこで寝るのかと聞かれた。隣で一緒に寝てあげようかと聞くと、顔を真っ赤にしてじゃあ私はソファーでいいですと慌てて叫ぶ。
冗談だよ、僕はソファーで寝るし、布団もあるからと答えた。

歯を磨いて僕の布団に入ったなつ。電気を消して静かになった室内でポツリと声が聞こえた。

"ヤマトさん、話聞いてくれてありがとう、ごめんなさい。コーヒーご馳走さまでした、ベッドお借りします。

…おやすみなさい。"

はい、おやすみ。

本当に休まないと、君の心がどうにかなってしまいそうだ。なつは明かりを消しても、僕に隠れて声を押し殺して泣いていた。

君が悲しむ必要はないんだ。話くらいなら聞くからいつでもおいで。
僕は迷惑そうな顔をしてはみるけれども、本当はそんなこと微塵も思っちゃいないんだから。


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