小話《短編集》
□コーヒーカップ・それから
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気付くともう、外は夕方の気配。
2人で会うのは久しぶりだったからか、
(…いや、久しぶりじゃなくてもそうか。)
たくさん、隆ちゃんと抱き合った。
かわいくて、あたたかくて、あまいこえ、いいにおい。
何度抱いたって、足りない。
ホントはもっともっと一緒にいたかったけど、ついに隆ちゃんが音をあげた。
「 喉…渇いた。……お腹も、空いた 」
ソファーに横たわったまま、頬を染めて、とろんとした顔で見上げてくる。
「もう、夕飯の時間かな?」
隆ちゃんの髪を梳きながら言うと、うん。と小さく頷いた。
「シャワー浴びて、ご飯にしよっか」
すると隆ちゃんは、もう一度コクンと頷くと、俺に向かってふんわりと笑いかけた。
「早くあのカップ、使いたい」
「ーーーーー…。」
「……イノちゃんと…」
( なんなんだ…)
さっきから何とか抑えているけど、いちいちいちいち、かわいいと思う。
我慢はキツイ。
…でも喉も渇いて、腹も減ってるみたいだから。
「先に紅茶飲む?」
ニッと笑ってもう一度、髪を撫でる。
そうしたら、うんっ!と言って、本日一番の笑顔を、見せてくれた。
俺は幸せ者だ。
ソファーの上、2人で裸にタオルケットを巻いたまま、いれたての紅茶を飲む。
隆ちゃんは白のカップ。
俺は、青のカップ。
ゆらゆら揺れる湯気の向こうに、お互いの穏やかな優しい笑顔が見えて。
(あぁー…もう、ホントに。俺は幸せ者。)
会えない日も、棚の中の寄り添ったコーヒーカップを見て、君を想うよ。
end
おまけでした。