長いお話《連載》
□21…陽の光の中の君。
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( ………明るい…? )
閉じた瞼の向こう側がほんのり明るく、暖かく感じた。
白い光が瞼の隙間から射し込んで。眩しくて、微睡みそうになりながらも、隆一はなんとか目を開けた。
ひどく身体が気怠くて、目線で辺りを見回すと。
目の前に見慣れた薄茶の髪があって、自分がしっかりと抱きしめられている事に気がついた。
( あぁ…そうだ。俺、昨夜イノランと )
急速に昨夜の事を思い出して、恥ずかしさで唇を噛みしめる。そして自分の身体に散った、無数の赤い痕を見つけて。その行為の激しさが蘇り、隆一はひとりで顔を赤らめた。
目の前で未だ寝息をたてるイノランを、じっと見つめる。
この瞳が好きだな…と、思う。
それから。この髪も、声も、指先も、いろんな表情も…。
( 結局、全部好きなんだ )
ひとりでクスクスと小さく笑っていたら、突然。ぐるりと景色がひっくり返って、横に居たはずのイノランが、上から見下ろしていた。
「っ⁉」
「何をさっきから、かわいいカオして笑ってんの?」
「なっ…なんだ、起きてたの⁇」
「おはよ隆ちゃん」
「ん…、おはよ」
イノランは起き上がると、隆一の腕を引いた。
身体を起こした隆一は、内腿あたりに鈍い痛みがはしり、僅かに顔を顰める。
「…痛い?」
そんな隆一の様子を目敏く見て、イノランは気遣わしげに手を伸ばした。
心配そうな目で見てくるから、隆一は緩く首を振って、微笑んで見せる。
イノランはホッと肩をおろすと、隆…。と、囁いて、隆一を抱き寄せる。
陽の光に透けたイノランの髪が飴色に見えて。とても綺麗で。
隆一は、ぼぉ…と見惚れてしまう。
その髪に触れたくて、そっと伸ばした手が、イノランに捕まった。
そのまま、優しいキスが降って来た。
ちゅ…ちゅっ…と。隆一の額や瞼、頬にたくさんのキスをすると、最後に大切そうに唇を重ねた。
「…んっ」
「…っ」
「ん…っぅ」
すぐに隆一から甘やかな声が漏れて。
イノランは、自制しつつも心が騒めくのを感じる。
イノランの腕に触れていた隆一の手指の先が。気付くと、くっ…と、爪先が食い込んで。
必死に快感を耐えているようで、イノランの心が更に煽られる。
こんな朝から…と自嘲しつつも。目の前に裸の身体の恋人がいて、無視なんて出来る筈なくて。
細々考えるのは止めにして。
既に蕩け始めた隆一に、唇を這わせた。
「ぁっ…だ…めっ」
「だめ?」
「ん…っ…だって」
「ん?」
動きを止めて、隆一の顔を窺い見る。
耳まで真っ赤にして、困ったみたいに眉根を寄せる。潤んだ目はイノランに訴えているようだ。
( また。そんな目で見て )
決壊しそうな理性をなんとか留めて。
イノランは辛抱強く隆一の言葉を待った。
「………明るいの…。恥ずかしいよ」
噛みしめた唇を解いて溢した言葉に。
イノランは思いを巡らせ、そう言えば…と納得する。
そして、ますます心に火がついてしまった。
隆一を抱きしめて、優しく耳元で言う。
「明るい所でするの、初めてだもんな」
「……うん」
「…でも、見たいな。陽の光の中の隆ちゃん」
「っ…」
「ぜったい、綺麗だし。どんな隆ちゃんだって、俺は大好きだよ」
「ーーー…」
「恥ずかしくないから」
しばらく視線を彷徨わせて、いつしか決心したのか。隆一は小さく頷いた。
「ありがと隆ちゃん」
「ん…」
「………隆…」
「ぁっ…」
「隆…」
「ん…ンっ…ゃ…っ」
ほの暗い夜の部屋とは違う。
暖かな陽射しの中で隆一を抱く。
僅かに染まった肌の色、滲む汗や濡れた唇が光って見えて。
やっぱり、とても綺麗で。
イノランは幸せそうに微笑んで、隆一に言った。
「隆ちゃん…っ…綺麗」
あんまり嬉しそうに笑うものだから、隆一もつられて、笑みが溢れる。
そして、見上げたイノランの熱に浮かされた瞳と、キラキラ光に縁取られた髪も、とても綺麗に見えて。
両手を伸ばして、イノランの肩口に絡ませて。引き寄せて、囁いた。
「イノランも…綺麗」
今朝は晴天で、どうやら海獣達も元気に泳ぎ回っているよう。
時折、鳴き声が響き渡る。
でも。2人には聴こえない。
お互いの吐息と声と、軋む音が部屋を充満して。
海獣の歌声に気がつくのは、もう少し先のこと。