小話《短編集》
□電車に乗って。
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だんだん、陽が落ちてきた。
線路沿いから見える水平線が、薄い水色から金色味を帯びてきた。
「隆ちゃん、ちょっと急いだ方がいいんじゃない?」
「そうだね、走る?」
「いいよ」
「ん!じゃあ砂浜まで競争‼」
「隆っ …お前もう走ってんじゃん!」
「イノちゃん遅ーいっ!早くー!」
隆の声がどこまでも響く。
果てが無いってくらい、遠くまで。
目の前をぐんぐん走っていく隆を見たら急に切なくなって、手を伸ばす。
「待て…っ て!」
やっと追いついて、隆の腕を掴んで後ろから抱き込んだ。
二人とも呼吸が整うまで、肩で息をして。はぁ…と、大きく息を吐いた隆が、顔を上げて歓声を上げた。
「イノちゃん見てっ…すごいよ」
「ーーーーーーーー……」
「ホントに、金色の海岸」
金色だった。
全部のものが。
夕陽に照らされて、輝いてる。
さっき幸せについて考え込んでいた俺は何処へやら。
もう今は、この景色を隆と見られた事に感激している。
クルリと隆は反転して、俺の方を向いた。
金色の光を受けて、隆の瞳がうるうる輝いてる。
あーあ…可愛いなぁ…と、見ていたら。隆は微笑んで、俺に囁いたんだ。
「この夕陽、綺麗だけど…。すっごく綺麗だけど。イノちゃんと一緒にいて幸せな気持ちは、やっぱりどこに居ても同じだなって思った」
「え…」
「イノちゃんといれば、俺はどこでも幸せ」
「ーーーーー…」
「俺はイノちゃんがいればいいの」
「ーーーっ…」
勢いよく抱きしめたせいで、二人して砂に足をとられて、倒れこむ。
ザッ…と音がして、砂が舞う。
目に砂が入って、瞬きをして自分の下を見ると。隆がびっくりした顔で見上げてた。
金色に縁取りされた隆が、めちゃくちゃ綺麗でかわいい。
それから。
二人して同じこと思ってたなんて。
すごいよね?
隆が俺の下で慌てて言った。
「イノちゃん!早くしないと、夕陽が消えちゃう‼」
確かに。水平線がだんだん青紫になってきている。
「え…なに、なんかお願い事すればいいの?」
「そうだよ!時間ないから簡潔にね!」
「えっと…じゃあ」
「うん⁉」
「俺が隆ちゃんを幸せにするよ!」
「え…?」
「ほらほら隆ちゃんも早く!」
「うう〜…じゃあ俺も!」
「ん!」
「俺がイノちゃんを幸せにするからね!」
顔を見合わせて笑う。
それからもう我慢できなくて、砂浜に寝転んだままキスをした。
「…っン…」
「ーー…っ 」
「ーーーー…んっ …」
夢中でキスして、砂浜を転げていたら。
空はもう蒼い空。月と星も輝きだした。
「イノちゃん…」
「ん?」
「帰りたくなくなっちゃった」
「ーーー砂まみれだしな」
「うん…」
「……帰るの…やめるか」
「ーーーーーうん…っ !」
どこかその辺に、泊まる所もあるだろう。
今夜は一緒にいよう。
身体を寄せ合って、離れないで。
そしてまた明日、二人で一緒に電車に乗ろう。
どこまでだって、君と一緒に。