過去の拍手話

□7…熱
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朝起きたら。



イノちゃんはまだ眠ってた。










朝まで一緒のベッドで眠ってて。
先に目が覚めたら、イノちゃんはまだよく寝てた。
そぅ…っとベッドから抜け出して、俺はシャワーを浴びて。
も一度戻ったら、まだ寝てたから。

そう言えば、朝食のパンが無かったな…と思い出して。

音を立てないように部屋を出て、近所のパン屋さんで食パンと、隣のカフェでイノちゃんのコーヒー豆を買って。

天気良かったから、ついでに近所を散歩して。
公園のアスファルトで丸まってる、グレーと白のハトを見つけて。
そよ風でふわふわ揺れる、丸い鳩胸の羽毛を眺めたりして。
朝の街を堪能して。



…でも。



やっぱり一人じゃつまらなくて。




鳩にバイバイ…と小さく手を振って。

元来た道を歩いて、家に着く直前に。

ピタリと、足が止まった。

……。


「…えっと…。」


なんか違和感が…あって。


それが、どんな事に違和感なのか、いまいちピンと来なくて。
でも。確信は無いんだけど、結構重要な事のような気がする。




「…………」



立ち止まったまま、考える。
記憶を掘り起こす。
遡って、小さな違和感を感じた。
その瞬間を。
思い出す。
思い出すぞ。

思い出……








「 ‼ 」






くるりと踵を返して。


駆け出した。


一直線に。


ある所へ。













「ただいま」


リビングに荷物を置いて。
そう…っと、寝室に入る。


イノちゃんは、まだ寝てる。


そっと手を伸ばして、イノちゃんの額に手を触れる。





………やっぱり。





「熱…あるじゃん」






イノちゃんのばか。
















………………………



「……ぅ、」




「あ、イノちゃん起きた?」



「………隆…」



イノちゃんは、俺の顔を見て起き上がろうとしたけど、怠そうに横を向くだけで精一杯みたいだ。



「無理して、起きちゃダメ」



布団を掛け直して、イノちゃんの額に、自分の額をくっ付ける。



イノちゃん、熱いよ。



「熱。今日は大人しく寝てるんだよ?」


「隆…」


「薬はあるから、ちゃんと飲もうね。あとね、経口補水液!それとリンゴとゼリーとコーンスープ」


「…いつの間に…いつ気付いたの?」



「はっきり分かったのは今朝だけど。でも、ずーっと遡って思い出したのは、昨夜だよ」



「 ? ? 」



「熱かったなぁ…って。イノちゃんの身体」



いつもよりね?


昨夜から…ホントは昨日の内から、具合良くなかったんじゃないのかな。


それなのに、一緒にいっぱい遊んで、ご飯も食べに行って、夜は…いつもより、優しく抱いてくれて。


あんなに近くに居たのに、気付かなくて。


ごめんね、イノちゃん。


でもイノちゃんも、ちゃんと言ってね?



「イノちゃん、隣入っていい?」


「なに言ってんの…感染っちゃうよ」


「感染らない」


「隆ちゃん…」


「感染らないから。万が一感染ってもライブも無いもん。いいでしょ?」



側に居たいよ。



イノちゃんの、薬になりたいよ。



前に俺が、具合悪かった時みたいに。



今度は俺が、側にいてあげる。




「ん。…じゃあ、来て?隆ちゃん」


「うん」



ベッドに潜り込んで、イノちゃんに擦り寄ると。
熱い熱い、イノちゃんの腕が。
俺の身体を捕まえる。

ぎゅう…。



「隆ちゃん…ひんやりして…気持ちいい」


「外に出てたからね」


「気持ちいい」


「ふふっ…」


「隆ちゃん…風邪感染らないの?」


「うん!気合いで」


「ははっ」


「あ、イノちゃん笑った。ちょっと、元気でた?」


「そりゃそうでしょ。隆ちゃんが居てくれるんだから」


「良かった」





ねえ。


「…………」


ねえ?


「…………」


ねえ、イノちゃん。


「隆ちゃん…」


あ…。


「目、瞑って?」


「………ん、」



同じ気持ちになったみたい。



「……んっ…ン」




イノちゃんの身体はやっぱり熱い。
でも、抱きしめてくれる腕は、とても強くて優しい。
唇も、いつもより熱い。
でも、とっても気持ちいい。



良かった。

俺でも、薬になれたんだ。




大好きな人を、癒せる薬に。







遠のく意識の向こうで聞いたのは、少し元気が戻った、イノちゃんの声だった。





「ありがと、隆ちゃん…」



大好きだよ。







end
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