過去の拍手話

□8…写真
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「ね、隆ちゃん。写真撮ってもいい?」



「ぇ?写真〜?」





今日は2人揃っての休日。

まもなく新曲発売。今はルナシーの方の仕事が連日多いから、おのずとオフの日も2人同じになることが多い。

昨日もプロモーションの仕事を5人でして、そのまま隆を連れて俺の家へ。

夕飯を食べて、今日の仕事の事なんか話して、交代で風呂に入りつつ、バラエティーのテレビを見て笑って、気づくとそこそこ遅い時間で、そろそろベッド行く?って聞いたら、隆がトロンとした顔で頷くものだから、…翌日休みだから良いよねって、お互い寝落ちるまで愛し合って、次に目覚めたら、間も無く昼になる頃だった。





シャワーを浴びて、先に出ていた隆がコーヒーを淹れてくれていたから。
ゆったりコーヒーを飲みながら、昨日仕事の時に撮った写真を眺める。


写真は前から好きだったけど、こうして見ると、メンバーの写真も増えたなぁ…と思う。
昔より、スマホで気軽に撮れるようになったってのも、あると思うけど。



やっぱり。


みんな丸くなったんだよな…と思う。
角がなくなって、優しく、余裕が出来たんだよね。


だから、フレームにおさまるメンバーは、みんな楽しげだ。




おもわず溢れる笑みをそのままに、眺めていて。

フト、思った。



隆だけの写真って、無いな…。


あれ?と思って、思い返す。

撮ってそうで、撮ってない。

隆はいつも誰かと一緒に笑ってる。








そう思ったら。

なんか…。










俺だけに向けられる、そんな表情を。

フレームにおさめたくなった。







そこで、冒頭の台詞だ。






「昨日もイノちゃん、いっぱい撮ってたじゃない」



「みんなと一緒のでしょ?俺は隆ちゃんだけのが撮りたいの」



「ええ〜?」



「別にポーズしろとか言わないしさ、いつも通りでいいよ。いいなって思った時、撮ってもいい?」



「う〜…ん。まぁ、いいけど…。」



「ホント⁉」



「うん、いいよ」



「やったぁ!ありがと隆ちゃん!じゃあ、どっか行く?」



「ええっ?…うーん……。 あ、俺ちょっと買い物行きたい」



「いいよ!」



「ん、じゃ、行こうか」






そんな訳で。
買い物に行きたいという隆に付き合って、街の中を練り歩く。
途中まで車で行って、天気が良いから後は徒歩だ。



本当に細々と色々見て回った。


靴屋で靴紐とワックスを買って、書店で小説と雑誌コーナーで俺らが表紙の雑誌を眺めて、併設されてるカフェでひと休み。
パン屋で朝食用のパンを買い、隆の好きな公園でハトを見る。だいだいいつも居る子は覚えたよ。と言って、白とグレーの2羽を教えてくれた。



その間俺は、いいな。と思った時に、そっとシャッターをきる。




冬の日暮れは早い。

まだ夕方だけど、もう薄暗い。




最後に夕飯の材料を買って、俺の家に帰る。明日はまたルナシーの仕事だから、一緒に行く予定。
















夕飯はカレー。
一緒に作って、サラダとワインで美味しく食べる。



片付けをして、またテレビとシャワーを交代でする。


隆を待つ間、俺は今日一日で撮った写真を、眺めることにした。







「あぁあ……かわいい…」




こんなところ隆には見せらんないってくらい、顔が緩んでるのがわかる。

でも、だって。かわいいんだから仕方ないよね?





靴を履く隆。
靴紐の色に悩む隆。
書店の入り口に佇む隆。
紅茶を啜る隆。
パン屋から香る匂いに、目を輝かせる隆。
公園で、しゃがんでハトを見る隆。
紅葉した街路樹の中、夕陽に縁取られてふんわりした隆。…
……


すっかり幸せ気分になって、さらに写真を見ていくと。







「 ………っ…!」

















「イノちゃ〜ん、上がったよ〜」



隆の呑気な声が近づいてくる。



「イノちゃん?何してんの…って…。あ、今日の写真?」



隆は俺の隣にするりと入り込んで、ソファーに座って。スマホを覗き込むように、ピタリと俺にくっついた。
どんなの撮れたの?と、擦り寄る風呂上がりの身体があったかい。












「隆ちゃん」



「うん?」



「えっと…」



「⁇」



「ごめんね」



「う?」



「ごめん、気づいてあげられなくて」



「え?」





頭に???だらけの隆に、今日撮った最後の一枚を差し出す。
これは、帰りの車内。
エンジンをかける、直前に撮ったもの。




それを見せたら、隆の頬に赤色が散った。




助手席に座って、俺の方を向いてる隆。

どこか切なげな表情で。
口を薄く開けて、何か言いたげな隆。



それは、本当に。
俺しか知らない隆だった。









「キス、したかったんでしょ?」



「ーーーっ…」



「いつもさ、するもんね。帰りの車で。エンジンかける前」









約束を、したわけでは無い。
いつからかは、覚えてないけれど。


どこかに行った、帰りの車の中で。
エンジンをかける、その一瞬前に。
俺たちはいつも、キスをする。


今日一日で増えた、愛情を確かめるように。

また次の瞬間から、お互いを愛していく、誓いのように。




お互い、それについては、何も言わないけれど。
いつしか大切なものになっていた。






それなのに、今日は…






「ごめんね、隆ちゃん」




君を追いかける事に夢中で、取り落としてしまった。
大切な、愛情の確認。





本末転倒だ、ホントに…。










「隆ちゃん、おいで」



「ん?」




腕を引いて、抱き寄せる。




「キスしよ?」



「っ…イノ…」



「隆…」





「ぁっ………ん…っ…ン…」







ここは車の中じゃないから、思う存分、キスをする。
何度も角度を変えて、唇を重ね合わせると、隆の身体はとけるようだ。



じっと隆を見つめる。



熱に浮かされて、潤んだ隆。

俺だけに向けられる笑顔。

俺だけが知ってる隆。

俺にしか引き出せない、隆の表情。

誰にも見せない。

俺だけのもの。




カメラは必要ないんだ、と。

今、わかった。

心に、脳裏に、肌に焼き付ける。

熱と匂いと、声と共に。




君の写真は、俺の中にだけ、あればいい。






end
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