過去の拍手話

□10…シーツ
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良いお天気だなぁ…








朝から真っ青な空。
気持ちいいそよ風も吹いていて。
穏やかで、最高な陽気。

こんな日は外に出たくてうずうずしてしまう。




「さて…と。掃除機は終わり。洗濯機もそろそろ終わるかな〜」



掃除したてのリビングをぐるりと見渡して。耳を澄ますと、まだ微かに聴こえる洗濯機の音。
あっちはもうちょっとかかるね。



「洗濯物干すまでは…洗い物しとこ」



今度はキッチンに向かって行って、朝食に使った食器を洗う。
勢い良く洗剤を出したら、フワッと細かな泡がしゃぼん玉みたいに舞い上がって。思わず笑みがこみあがる。



(しゃぼん玉、懐かしいなぁ…)



ふわふわ泡が飛び交うキッチンを横切って、今度は食器棚からガラスのコーヒーポットと黒のマグカップを取り出す。それから昨日の仕事の帰りに買ってきた、新しいコーヒー。店員さんにオススメを聞いて、コーヒー豆を挽いてもらってきたもの。

それらをトレーに乗せて、コーヒーセットの出来上がり。じっと眺めて、彼の喜ぶ顔を思い浮かべたら、ニンマリしてしまう。


そう。
今日はこれから、イノちゃんが遊びに来てくれるんだ。
イノちゃんは昼過ぎまで仕事。俺は今日は完全なオフ。
最近ずっと忙しくて、なかなか二人だけで会うって出来なかった。
会うのはいつも仕事で…だったから。
嬉しい。

イノちゃんと二人きりで会えるって思ったら。
嬉しくて、楽しみで。
昨夜も早く寝て、今朝も早起きして、朝からバリバリ家事をしている。

だってせっかく来てくれるんだから、おもてなししないとね!



そうこうしてたら、洗濯機が終了した音が聞こえてきた。
洗濯物を取り出して、今日は本当にいい天気だから外に干す。
今日はすぐに乾きそう。

パンっ !と広げる度、洗剤の香りが漂って。…なんだろ…すごく幸せな気分。これって多分、イノちゃんが来てくれるからなんだろうな…



洗濯物を干したら、次は買い物。
イノちゃんとちょっと遅めのお昼ご飯を食べるから、ちょこちょこ買う。
夜は出かけて外で食べようって決めてるからいいとして…。明日の朝用の物も少し買って行く。


買い物を終えて、のーんびり。
近所の公園に寄る。
そうしたら…いたいた。あの子たち。
丸い鳩胸の、白とグレーの二羽の鳩。
まん丸くなって、あったかそうなアスファルトの上で寄り添ってる。

驚かさないように、そっとしゃがんで眺める。


( ふふ…っ )


可愛いな。遠くから見ると、二個並んだお饅頭みたいだけど。近くに寄ると、擦り寄って、仲良しなんだなぁって思う。


( …俺とイノちゃんも、メンバー達から見たらこんななのかな )


もちろん仕事中はしないけど。
休憩の時とか、ふとした時。
俺とイノちゃんはくっ付いてる事が多い。(…と、ニヤっとした顔でスギちゃんに言われた )

イノちゃんは触ってくるのが好きだし、俺もイノちゃんにくっ付くの好きだから。
…というか、好きだからくっ付くんだよね。
なんて、考えてたら。


( 早く会いたくなっちゃった )



「ばいばい」



鳩たちに手を振って、家に帰る。
時計を見たら、いつの間にかもう昼過ぎだった。

買って来た物を冷蔵庫にしまって、洗濯物を見に外に出る。



「早っ」



厚めの衣類はもうちょっとだけど、一枚布の白いシーツはもう乾いてる。
シュッと、シーツだけ取り込んで部屋に入る。



「…いいにおい」



洗剤と太陽の混じった、陽だまりの匂い。まだ太陽の温もりが残ってて気持ち良さそうだったから。
パサッと真っ白なシーツに包まってみる。



「うぁ…あったかい…。いい匂い〜」



包まったまま、近くのソファーにコロンと寝転ぶと。…しまった…急激に眠くなってきた。
早朝から動き回ってたからな…

少しだけいいかな…
イノちゃんもまだ来ないし。

少しだけ…




くー…。と、瞼は落ちて。
眠りに入るのは、あっという間だった。









優しい感触が前髪や頬に触れて、少しづつ意識が浮き上がっていく。

それから少ししたら聴こえてきた。
低くて優しい、大好きな声。




「隆ちゃん…」

「そろそろ起きてよ」


「ーーーーーー…ん〜…」


「隆ちゃーん?」


「…んー…」


「……そんなね。めちゃくちゃ可愛いカッコで、いつまでも起きないと…」


「ん〜…?…ぁ…。イノ…ちゃん?」


「襲うからな」


「ぇ…?…ぁ…っ…」




はっと気付いて目を開けたら、すごく楽しそうに微笑むイノちゃんの顔。
いきなりこんな近くにいて、かぁっ…と顔が熱くなる。



「イノちゃっ…」


「隆ちゃんが悪い。こんなシーツに包まってさ…。」


可愛すぎ…。
耳元でそう囁かれて、思わず身体が震えてしまった。



「まっ…待って、待って‼」


「えー〜?」


「ダメっ!まだダメ‼」


「なんでよ」


「だって…」


「ん?」


「だって…。お昼食べてないし。これから出掛けるし。コーヒーも、入れてあげてないし。…それにシャワー…浴びてない…し。…明るいし…」



恥ずかしくて次第に小声になってしまう俺を、イノちゃんはじっと見つめてて。
目が合った途端に、シーツごと抱きしめられた。


「イノちゃんっ」


「ああ〜っもう!なんで…こう。俺の恋人はこんな可愛いの⁉」


「うぅ…」


「…わかった、いいよ。これから楽しみな予定もあるもんね。ーーーだから夜にな?」


「…うんっ」


頷いた俺にイノちゃんは笑ってくれて、急に真面目な顔になったと思ったらクッ…と顎を掴まれた。



「じゃあさ…キスだけ。今いい?」


「ーーっ…」



そんな事聞かなくてもいいのに。

ちょっと照れてるみたいなイノちゃんが愛おしくて、シーツを被ったままイノちゃんの首元に抱きついた。



「いいよ?」


「ーーーうん」



「…ンッ…」



やっぱ隆ちゃん、めちゃくちゃ可愛いってイノちゃんは言いながら。
重なった唇は、すぐに深くなって。
夢中になってキスをする。



唇を離して微笑み合ったら。
あ、そういえば…と思い出して、イノちゃんの目を見て言った。



「イノちゃん…おかえりなさい」



俺の言葉に、イノちゃんの目が一瞬見開いて。すぐに嬉しそうに細められた。
耳に届いたのは、愛おしい声。




「ただいま」





end
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