過去の拍手話

□13…涙
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隆が泣いてる‼



そう言って、バタバタと楽屋に飛び込んで来たのはスギちゃんとJ。



「……」





「おいイノっ!隆が」


「…聞いてるって」




血相変えた二人に囲まれて、両方から腕を掴まれて。…うるさい。腕痛いっての。




「ーー泣きたい時だってあるでしょ」


「オマエっ …それでも隆の恋人か⁉」


「…ちゃんと恋人だけど」



キスもその先もちゃんと毎日してるし愛してるよ?って言ったら、ぐっと言葉を詰まらせたけど。でもっ‼と逆に詰め寄られた。



「心配じゃねーのかよ」


「泣きたい時に泣けない方が心配だよ。いいじゃん別に、泣いて発散できるなら」


「ーーーまぁ、そうだけど…」


「今はひとりになりたいかもしんないし。後で様子見に行くから」



そういえば真ちゃんは?
姿が見えない彼の行方を聞いたら。



「物陰から隆の様子を見守ってる」



何て言うから。
俺は大袈裟にため息をついて、見てくるわ…。と、腰を上げた。







つくづく隆は皆んなに愛されてんだなって、こういう時思う。

いつもにこにこしている隆だから、こうやっていつもと違う顔を覗かせる時。
それを目の当たりにしてしまった時。
慣れてないと。正直、焦る。

隆と付き合い出したばっかりの時は、俺もそうだった。
恋人になった時から、次から次へと惜しみなく見せてくれる、はじめての隆に。
戸惑う反面、俺はどんどん隆に惹かれていった。
そして、俺にしか見せないって事が。
俺を夢中にさせた。



( 理由は分かんないけど、たぶん不可抗力だったんだろうな )



見つかるような場所で涙を見せて、メンバーに心配させるなんて。

オンとオフをしっかり使い分ける。いつもの隆なら、そんな事は良しとしないから。




二人に聞いた事務所内の別室に赴くと。成る程言っていた通り、真ちゃんがドアの隙間から心配そうに中を伺ってた。



「真ちゃん」



声を掛けると真ちゃんはびっくりした様子で振り返って、待ってましたと言わんばかりの形相で迫られた。



「イノっ 隆ちゃんが!」


「聞いた。そんな…大丈夫だって」


「だってよぉ…」



真ちゃんは眉を下げて、いつもの豪快な迫力はどうしたって感じで。
また見えないドアの向こう側を見つめてる。



ーーー隆。ホント、みんなに愛されてるよ?



俺は溢れる苦笑を隠せずに、真ちゃんの肩を叩いて言った。



「様子見てくるから。アイツらと待ってて?」



名残惜しげにその場を後にする真ちゃんを見送ると。
俺は軽くノックして、ドアの隙間から中に入り込んだ。

太陽光が射し込む明るい部屋で。隆は窓の方を向いて、パイプ椅子に座って俯いている。



「隆」


びくっと肩が揺れて、俺の方に隆は振り向いた。
その目には三人の言うように涙が溢れていて。随分泣いたのか、頬も目元も赤くなっている。



「イノちゃん…」



近くにあった椅子を引き寄せて、隆の隣に並んで座る。




「…隆ちゃん、どした?」


「え?…」


「アイツら心配してたよ。隆が泣いてる!って」


「ぇえっ ?」


「…なんか、あった?」



隆の目元に手を伸ばして涙を拭うと、隆は慌てたように首を振る。



「ち…っ 違う 」


「え?」


「確かに俺、泣いたけど…。っていうか泣くつもり無かったんだけど」


「うん」


「ーーーーーーーー…怒んない?」



騒がせてしまって、って事だよな。
やっぱり不可抗力だったんだ。

チラリと見上げたバツが悪そうな顔の隆が、なんだか可笑しくて。
それに怒る理由なんてないから、俺は微笑んで隆の髪を撫でた。



「怒んないよ?」


「ーーーうん…」



ずっと両手で胸に抱えていた物を、隆はそっと見せてくれた。

それは。



「雑誌?」



俺ら、ルナシーのインタビュー記事が載っている、最新の音楽雑誌。
ーーーこれはまだ発売前のはず。


???が並ぶ俺を見て。
隆ははにかんで、教えてくれた。



「さっきスタッフが見本誌持ってきてくれて、見てたんだけど…」


「…うん」


「みんなのインタビュー読んでたら、レコーディングの事とか…思い出して。ーーー…感極まったって、言うのかな…」


なんか感動して泣けちゃった。
そう言って、えへへ…と笑う隆。




「ーーーーーーーー」




なんか、ほっと力が抜けた。
なんだかんだ言ったって、恋人の泣く姿には動揺する。




「隆」



ぎゅっと、抱きしめる。



「良かった」


「ーーーごめんね、なんか心配させちゃって」


「いいよ。隆がどんだけルナシーを愛してるか、見せてもらったから」


「ーーうん」


「アイツら大騒ぎしてたけど、真相がわかれば安心するよ」


「うんっ 」



ーーーでもさ?



「…でも、隆?」


「ぅん?」


「今回のは仕方無かったけど…」


「……」


「ーーーーー俺の前だけで泣いてよ」


「…イノちゃん」


「俺の前では、我慢しなくていいからさ」


「ーーーーーうん」


「オフの隆は、独り占めしたい」


「うん、俺も」


「え?」


「こんな照れる台詞言うイノちゃんは、俺だけのだよ?」


「うん」


「ふふっ…」




密やかにくすくす笑い合いながら、いつの間にか重なる唇。
隆の両手が俺に絡まって、溢れる声に無中になる。



「ンっ …ん…っ 」



止まらなくなって、離した唇を隆の首筋に移した時。


カタ…と。
ドアの方で微かな音。
…それに続いて




ーーーばか!聞こえるだろっ

ーーースギの声のがうるせーっての!

ーーーオマエらいいから静かにしろっ




( …丸聞こえだっての )



どうするかな…と、唇を這わせながら考える。
でも、隆には聴こえてなさそう。
蕩けきった顔で縋り付いてくる。



( まぁ、いいか )



内鍵は閉めてあるから、見られる事は無い。
もう少しだけ待っててもらって。


あとでアイツらにも教えてあげよう。


隆の、涙のわけを。






end
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