過去の拍手話

□19…膝枕
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ザザ…ン。

ッ…ザ……ン…



寄せては返す。
波。

初夏の青空に照らされた海は、透けて綺麗な明るい青色。
砕けた波は、しゅわ…と泡立って、砂浜に白い模様をつけていく。





いつもの海。
いつもの砂浜。
いつもの二人。



車で履き替えた二人分のビーチサンダルが、そこら辺に転がっている。

辺りを見回しても、あんまり人はいない。なんでだろう…?平日だから?
ちょうどいいけどね。
どっちかと言ったら、静かな海が好きだから。


そんな静かな海岸。
俺は砂浜にペタリと座り込んで、じっと海を見る。





「あ…つ…」



ちょっと暑いかな。陽射し。
風は涼しいから、動き回っていれば心地いいくらいなんだろうけど…。
こうしてじっと動かないでいると、正直、暑い。
陽射しが照り付けて。

動けば?って思うかもしんないけど…動けないの。
ーーーなんでかってね?




「ーーーイノちゃん…よく寝られるな…」



こんな陽射しの中でさ…。



イノちゃんは今。俺の膝に頭を乗せてる。俺の膝を枕にして、気持ちよさそうに眠ってる。
ーーー膝枕ってやつだね。



















「隆ちゃん、膝枕して」



一緒の休みの日。
いつもみたいに行き場所が思いつかなくて、いつもみたいに来た、いつもの海岸。
到着して。ひと遊びした俺が、砂浜に腰掛けていたイノちゃんの所に行くと。
ーーー言ってきたんだ。

膝枕してって。




「ーーーここで?」

「もちろん」

「今?」

「そりゃそうだろ」

「えぇ〜?」

「え、ヤダ?」

「ヤダ…とかじゃ…無いけど…」

「うん?」

「ーーーーーーーう〜…」

「う〜?」

「ーーーーーーーーーー恥ずかしい…し」

「うわ…」

「うわ?」

「相変わらず。…」

「ん?」

「ーーー隆ちゃん…可愛い」

「!」




はい、決まり。
もう今ので決定。
可愛い隆ちゃんに膝枕してもらう!




そう言いながら。イノちゃんは俺の体勢をぐいぐい変えて、反論の余地なく、俺の揃えた膝の上にごろんと寝転がってしまった。




「っ …あっ …」

「え、なに隆ちゃん…エロいよ?」

「違っ …くすぐっ…たぁい」

「ーーーくすぐったいの?」

「だって!…ゃっ …動かな…で」



あはははっ!…って笑いが込み上げて堪えられなくて、身体を捩っていたら。
隆ちゃん、これじゃ寝らんない。って、イノちゃんの腕が俺の腰に巻きついてきた。



「イノちゃんっ 」

「あー…至福。これすっごく気持ちいい。リラックスできる…」

「ーーーそんなに?」

「うん。…だって、好きな子の膝枕だよ?気持ちよくない訳ないよね」

「ーーーそ…なんだ」



それって、ちょっと…嬉しいかも。



嬉しいって思ったら、くすぐったいのは鳴りを潜めて。
今度込み上げてきたのは、優しい気持ちだ。

陽に透けていつもより明るい色のイノちゃんの髪を。いつもイノちゃんがしてくれるみたいに、指先で梳いてあげる。
気持ちいいのかな?
いつの間にか目を閉じてるイノちゃんの口元は、緩いカーブを描いて微笑んでる。

ホントに、いつもと逆だね。





「イノちゃん、少し寝ていいよ?」

「ん…隆ちゃん…ありがと」

「おやすみ」

「…おやすみ」




くー…。と、深く吸った息をゆっくり吐いて。イノちゃんはすぐに寝息をたて始めた。









ザ…ザン…

ザザ…



ピイピイ…と海鳥の声。






「ーーー静か…」





膝枕してる時って。
考え事にいいかもしれない。

自分は寝てられないし。動けない。
自由なのは上半身だけ。

読書はいいね。あと…縫い物とかするひとは、それもいいかも。

でも、だんだんと痺れてくる足を、ジリジリと体勢を変えたり。起こさないようにって。

結局は、今膝に乗っているひとの事を、延々と考えてしまうんだ。








「イノちゃん、好きだよ?」

「あなたが好き」

「イノちゃん、愛してる」





面と向かって言うのはなかなか恥ずかしい言葉を。こんな時にここぞとばかり言いまくる。
でもこれだって、どきどきするんだよ。

実は起きてたりして…とか。
そんな事考えて、ひとりで顔を赤くするんだ。



「ーーー」



反応ナシ。
ちゃんと寝てるみたいだ。


よし。ーーーそれなら…。






「あなたに会えてよかった」

「よかったって思うたび、ホントは泣けてくるんだよ?」

「あなたの隣で、歌い続けたいよ」

「一緒にいさせて」

「側にいて」





今だから、言えそう。
海と空の力を借りて。
すぅ…と息を吸って、海の向こうまで届くように。






「世界で一番、あなたを愛しています」






「⁉」





ぐいっと引き込まれたのは、イノちゃんの胸の中。
あっという間に、体勢は逆になって。
…あれ?

嬉しそうに。心底嬉しそうなイノちゃんの笑顔が真上にあって。
それを見たら…わかってしまった。

全部聞かれてたって‼




「イノちゃんっ …寝たふり⁉」

「微睡んでた。ーーーでも、目ぇ覚めちゃうでしょ、あれは」

「‼」

「隆ちゃん可愛い!好きだよ!嬉しい!愛してる!」

「っ …〜〜」





イノちゃん、ホント油断なんない!絶対寝てると思ったのに。
恥ずかしくて、ジタバタ暴れたら。イノちゃんは抑え込むみたいに俺を抱きしめた。





「ーーー心の内吐き出して…どう?」

「え?」

「普段言えない事、いっぱい言ってくれたでしょ?」

「ーーーーーーーーうん…」

「恥ずかしい?」

「恥ずかしいよ!」

「ーーーでも、気持ちいい?」

「ーーーうん…。スッキリ」

「じゃあ、いいじゃん?」

「ーーーーうん」

「ふふっ 」

「へへっ 」




太陽がちょうど真上のあたり。
見下ろしてるイノちゃんが、逆光で見えづらくなってきた。

ーーーだったらいいかな。

直視は恥ずかしいけど。これなら…




「ーーーイノちゃん」

「ん?」

「…なにもしないの?」

「え、」

「この体勢、絶好のチャンスじゃないの?」

「ーーー隆…」

「ねぇ…して?」

「っ …」

「イノちゃん」





逆光で表情は見えづらくなっちゃったけど。包む匂いはイノちゃんのもの。
俺とイノちゃんの前髪が混ざって、もっと絡んで。


そうだ。これもいつも思う事。
砂浜でイノちゃんとキスすると。
不思議な事に、それまで聞こえてた波音も、鳥の声も。

なんにも聞こえなくなるんだ。

イノちゃんしか、感じなくなるんだ。





車まで歩く道すがら。
イノちゃんは俺の方をちらっと見て言った。




「隆ちゃん、さっきのあれ、もう一度聞きたい」

「え?」

「世界で一番〜…っての」

「!」

「もう一度聞きたいな」




甘さを含んだ、イノちゃんの声。
揺らぎそうになるけど…。
ーーーーでもダメ。




「また今度ね?」

「えぇ?」

「こーゆうのは、忘れた頃にいきなり言われるのがいいの」

「俺は毎日でも聞きたいよ?」

「でもダメ」

「ちぇー」




残念そうに不貞腐れる…ふり?
すぐイノちゃんにのせられるから、用心しないとね。

でもね?そう言ってくれたことは嬉しかったから。




「イノちゃん」

「ん?」

「手、繋ご?」

「!」




ずっと手繋いで離さなければ。その瞬間はすぐにまた来るよ。




「らぶらぶなんだね、俺たち」

「そうだよ、ずっと前からだ」

「離さないでよ?」

「隆もな?」







end
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