過去の拍手話

□20…はじめて
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裸のままで。
真っ白なシーツにくるまって眠る君。

あの日から。

もういくつこんな朝を迎えたかな。
















《 はじめて 》













俺にとって隆は、本当に大切な存在だった。
それはもう、ずっと。ずーっと前からだ。
遡れば、それは。
おそらく初めて出逢った時から。

歌声も、笑顔も、性格も。とにかく隆というひとを形造る全てが、俺を捕らえて離さなかった。

はじめは好奇心。
仲良くなって、一緒に音楽で進んでいきたい。一緒なら、どんな世界でも行けると思った。

でも、その内に。
メンバーとしてだけじゃない。
それだけじゃ物足りない。
もっと一緒にいたい。
側にいたい。

そう思う自分を自覚して。
ちゃんと自分の気持ちを見極めなきゃって。
しばらくの間、隆と接する時の自分自身を、ちょっと引いた目で観察してた。

そしたら。
困った事に、俺が思い知ったのは。
紛れもなく、隆が好きだという事。







「はぁ…」



こんなため息も、最近は頻発してる。

俺だって、別に恋愛が初めてなわけじゃない。その上で、自分自身の分析をした。
好きになったら、好きだと伝えたい。
それに対して、好きだと言われたら嬉しい。
両想いになれたら、デートして。
手を繋いで。
微笑み合って。
そっと肩を抱いて。
もっと、抱きしめて。
それから…キスをして。
きっともっと欲しくなるから。

そうしたら…隆と。




「はーーーーー……ああああああ」



思わず、俺は天を仰ぐ。
恥ずかしい事に、顔が熱い。

つか。学生じゃないんだからさ。
こんな…まるで初恋だ。
それにそもそも、メンバー同士。もっと言ったら、同性同士。
これは…。色々道は険しそうだ。




「はぁ…。」




ーーーでも。仕方ないよな。
だって、好きになってしまったんだ。
好きになるのに、性別も年齢も関係無いって言うけど。
まさにそうだ。
他ならない、隆というひとを好きになったんだから。

この想いを成就するには、色んな壁がありそうだけど。
関係ない。
だって好きだから。
どんな壁だって、超えられるって思える。

好きっていう気持ちは、すごいんだよ。














告白するなら、こんな場所で。…とか考えてた事もあったけど。
気付いたら俺は。
いつものスタジオ。
通い慣れたスタジオの屋上で。
隆に、告白してた。

今日ここで言おうと思っていた訳じゃない。
たまたま隆と一緒にいた屋上で。
レコーディングの合間。
休憩してた隆と談笑してて。
ひとしきり喋って、笑って。

ふ…。と、会話が途切れたんだ。

その時に、ちょうど吹いてきた涼しいそよ風が、隣の隆の黒髪を揺らして。
風に混じって、隆のシャンプーの香りが微かにして。
揺れた両サイドの長めの髪の隙間から、隆の横顔が見えて。
何と無く、微笑んでいるような。
そんな穏やかな横顔で。

ずっと遠くの景色に向けられた隆の視線が、欲しくて堪らなくなった。
こっちを見て。
俺を見て。…って。





「隆のことが、好きだよ」




壊れそうな鼓動とか、覚悟していたのに。急に口から溢れた告白だったせいか、全然そんな事なくて。
割と落ち着いた自分。
ーーーでも。足元だけは、地に着いてないみたいだった。
ふわふわして、夢心地な。

俺の突然の告白に、隆は当然目を丸くしてた。
そりゃそうだよな。

でも隆は、じっと俺を見て。
馬鹿にしたりとか、引いたりとか。そんな気配も見せないで。
ただただじっと、俺を見てたから。
俺もそらしては駄目だと思ったから、隆の視線を受け止め続けた。



「ーーーイノちゃん…」

「ん?」

「ーーーーーそれって」

「ーーー隆ちゃんが好きってこと。恋愛したいって事」

「っ…!」

「ーーーぇ…」




もう一度、好きだと言った瞬間。
隆の顔がほわ…と、赤くなった。
それが。




( ヤバ…っ… )




可愛くて。

惚れた手前ってのも…あるのかな。
もうそれどころじゃなかったんだけど。
とにかく可愛くて。
こんな反応を返してくれるって事は…?と、期待も大きく膨らんで。
隆に問いかけた。





「隆ちゃんは?」

「え…?」

「俺を、どう思ってる?」



突然の事だから、押し付けたくはなかったけど。
ーーー知りたいって思うのは、仕方ないよな?

俺の言葉に、またじっと俺を見て立ち尽くす隆。返事も時間がいるって思うし。どんな返事であれ、貰えるだけで一歩前進だ。俺と隆の、今現在の立ち位置がわかるんだから。

それだけでも、良いって。
そう思っていたのに。


隆は、言ってくれたんだ。
今まで俺が、見たことがないくらい。
綺麗な微笑みにのせて。





「ーーー俺も、すき。イノちゃんが、すきだよ?」












大好きな隆と、恋人同士になれて。
もうひと月。

月日が経つのって早い。
毎日が忙しいのもあるんだけど。

片付けなきゃいけない仕事は待ってはくれなくて。
あの屋上以来、デートはおろか。手を繋ぐこともできていない。
こんなんじゃ、キスなんて。一体いつになったらできるんだろう。

一時的な衝動で、なし崩しにしたいんじゃない。
隆は大切なひとだから。
たとえ時間がかかっても。ひとつひとつ、丁寧に進みたい。

どきどきしたいし、優しくしたい。
だから、忍耐と共に、ここまできたけれど。

でも、そろそろ。もういい加減そろそろさ。
したいな…って。

そんな風に悶々としてたら、マネージャーから吉報が。
オフになったらしい。明日。仕事の予定が変更したと。

明日、隆は元々オフなのは聞いているから知ってる。
だとしたら。
ーーーチャンスじゃないか。


俺はすぐに、隆に連絡を取った。
明日、デートしようよ≠チて。
















「ーーーごめん…イノちゃん」

「気にすんなって。それよりいいから、ちゃんと寝てな?」




隆が熱を出してしまった。

昨日の昼間の電話では元気そうだったのに。夜中に隆から電話がきて。
ごめんね。風邪ひいたのかも≠チて。済まなそうに言った。

残念だけど。これは仕方ない。連日の仕事で、疲れも溜まってたんだろう。
隆が責任を感じる必要なんてないんだよ。



「ーーーごめんね」

「だから、隆は悪くないんだから。良くなったら、行けばいいよ」

「ーーーうん…」



すっかりシュンとした様子の隆。
ベッドに横たわって、眉を下げてる。



「行きたかった?」

「え?」

「俺と。初デート」

「っ…ーーそりゃ…そうだよ」

「ホント?」

「当たり前でしょ?ーーーだって…嬉しかったんだから。デートに誘われて」

「っ…ーーー」

「初めての…デートだよ?ーーーいろいろ…」

「え…?」

「あの屋上から…何もしてないじゃん。ーーーだから」

「ーーー」

「イノちゃん…いつ、してくれるのかなぁ?…って」



俺の脳内が大騒ぎだってのは、わかってもらいたい。
だって。
可愛いにもほどがあるだろ。





「ーーーしよっか」

「え?」

「初めてのキス」

「っ…‼」

「俺も、今日のデートでしたいって思ってた。良い景色の場所で、カッコよく…とかさ。ーーーでも、隆ちゃんとキスできるなら、どこでもいいんだ。ホントは」

「イノちゃん…」



横たわる隆のすぐ側に。ベッドの縁に腰掛けて。
覆いかぶさるみたいに、手をついて。
顔を寄せる。



「ーーー隆ちゃんは風邪で辛いかもしれないけど。逆に、良かったかも」

「っ…え」

「ーーーどきどきしない?こんなキス」

「イっ…ノちゃ…」

「目。閉じて?」

「っ…ーーーーーうん…」



震えながら閉じる隆の瞼。
無造作にかかる前髪が、めちゃくちゃ艶っぽく見えて。
綺麗で。
ーーーーー可愛い。


熱で火照った唇も。
初めて聞いた掠れた声も。

隆と初めてしたキスは、忘れられない。





















「あれから何年経つ…?かな」



シーツにくるまる隆の髪を梳きながら。懐かしい頃に思いを馳せた。

あれからずっと隆といるけれど。
想いは変わらず。むしろ増えていって。
数えきれないキスも。身体も愛も重ねた日々も。
この先もきっと、続いていく。



「っ…ん…イノちゃん?」

「おはよ、隆ちゃん」

「おはよう。ーーーーーー?なに?」

「ん?俺は幸せだなって」

「え?」

「隆といられて、幸せだよ」

「っ…ーーーうん」

「隆は?」

「え?ーーー…わかるでしょ?」

「言って?」

「っ…ーーーーーーーーーー俺 も」

「ーーー」

「しあわせ」

「ん」

「ね。ーーーして?」

「ん?」

「あの、初めてキスしたときみたいに」



緩く目を閉じて、キスを待ってる。
飽きる事はない。
何度だってしたいから。




「っ…ぁ、ぅん」




この瞬間の隆は、今だけのものだから。
小さな愛情のカケラも、取りこぼさないように。


俺と隆の、あのはじめての日を。
いつでも側において。

はじめて≠探しに行こうな?









end
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