小話《短編集》

□屋上から
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( 眠・・・)


ふう・・・と吐き出した煙が、青空に消えてった。
見上げると淡い白い雲が、ゆっくりと流れていく。

眠気でぼんやりした頭で、煙なんだか雲なんだか。
よくわからない。

ポカポカした昼下がり。
こんな心地いい日に外にいるなんて、いつぶりだろう。

( あったかいなぁ。 )

今日もLUNA SEA のレコーディング。
ここしばらくずっとスタジオに籠っている。
楽器隊の録りは今日でほぼ終わる予定。やっと何となく終わる気配が見えてきて、煙草とアコースティックギターを抱えて、屋上に出た。


ふうっと最後の煙を吐き出して、灰皿に短くなった煙草を押し付ける。
そして傍らのギターに目をやって、思わず苦笑いが溢れた。

休憩なのに持ってきちゃうって・・・。

日差しで温かくなったベンチに腰掛けて、何とも無しにギターを爪弾く。

( そうだ )

思い立って、少し姿勢を正して、さっきとは違う音楽を奏でる。

歌も、口ずさむように。


これはLUNA SEA の曲じゃない。
ソロで出そうかなって思っている曲。
少し前から、あたためてきた曲。
想いを込めた、大切な曲だ。
・・・なんでって?

ずっと想っているから。

ずっと想い続けるから。

あの人のことが大事で、あの人を大事に思う自分も、あの人と一緒に存在できるこの世界も。繋がりである音楽も。
全てが愛おしくて。
随分と毒されてるなぁ・・・と、笑いと溜息がこぼれた。



「イーノちゃーんっ!」

聞き慣れた声が飛び込んできて、ハッと我にかえる。

声のした方に寄って、屋上の柵越しに下を覗くと。

「隆ちゃん!」

にこにこした笑顔でこっちを見上げてる。
今日はひとつ仕事をしてから来るって言ってた。

「お疲れ様!よく俺がいるってわかったね。」

「だって聞こえたもん!」

「え?」

「ね、そっち行っていい?」

「ん?」

「待ってて!」

返事をする前に、隆ちゃんの姿はもう無くて。
せっかちなんだか。


まもなく派手な音をたててドアが開かれた。

「隆ちゃん、階段登んの早すぎ!」

「っっだってっ!」

息を整えて顔をあげた隆ちゃんは、しばらくジッと俺を見つめる。あんまりにも見てくるから、気恥ずかしくなってくる。

でも次の瞬間、隆ちゃんに笑顔が広がった。思わず息を止めてしまうくらいの。

「遠くからでも、姿が見えなくても、イノちゃんのギターの音色だってわかるって、すごいでしょ?」

褒めて?と言わんばかりに、にこにこしながら、心底嬉しそうに顔を寄せてくる。

「イノちゃんのねぇ・・ ・すぐわかるよ?・・・匂いも声も、全部。」

ちらりと寄越した眼差しは、なんだか熱い。
俺は、この目に弱いんだから。

「・・・隆ちゃんだけだよ」

俺の全部がわかるなんて。
そう言って隆ちゃんを引き寄せて、腕の中に閉じ込める。
傍らに置いたギターの弦に、隆ちゃんの指先が微かに触れて、シャランという柔らかな音が屋上に響いた。

隆ちゃんを抱きしめながら聞いた、その音色は、いつまでも俺の中で鳴り響いて。
とんでもなく大きな、幸せな気持ちが広がる。

「ねぇ、隆ちゃん。さっき俺が弾いてた曲ね?」

「ん?」

「隆ちゃんにあげる。俺の気持ちだから。」


腕の中の隆ちゃんが、ちいさく頷くのがわかった。


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