小話《短編集》
□コーヒーカップ
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今日は朝から仕事だった。
マネージャーと赴いて、インタビュー。そのあと撮影。午後ももう1件インタビューがある予定だったけど。
「隆一さん、午後のインタビュー日にちが変更になりました。先方の事情で」
「そうなんだ、いつ?」
「週末ですね、その日同じ方面で予定入ってたから」
「じゃあ、ちょうど良かったね」
「そうですね。なので今日は・・・」
「オフ!?」
「あ、はい!今日は終わりです。」
思いがけないオフに笑みを抑えられない俺に、マネージャーは笑いながら言った。
「嬉しそうですね」
「えっ?あー、うん。 イノちゃんが・・・」
「イノランさん?約束とかあるんですか?」
「う、うん。昨日電話してて、今日終わったら遊びにおいでって。イノちゃん今日はオフだから」
「じゃあ、早く行けますね、送りましょうか?」
マネージャーはにこにこして車を指差した。
でも一瞬迷ったけど、首を振った。
「ううん、ちょっと買い物して行くから大丈夫、ありがとう。そっちこそ、こういう時はゆっくりしてね!」
「わかりました、気をつけて!」
「うん、お疲れ様!」
お疲れ様です!と手を振るマネージャーと別れて、急に訪れた自由な時間についつい顔が綻んでしまう。
イノちゃんに早く会いに行ける!
そう考えたら嬉しくて、歩みも早くなる。
(何か美味しいもの買っていこうかな)
(あそこの通りのあのお店。テイクアウトも出来たはず)
(そうだ、あの雑貨屋さんもイノちゃんが好きそうなのあったな)
そんな事を考えて、赤信号で立ち止まる。冷たい冬の風が足元の落ち葉を巻き上げて、青く澄んだ空に吸い込まれていった。
( イノちゃん ・・・)
彼を想うと、自分がひどく弱いものに思えることがある。
『隆ちゃんはLUNASEAで最強!ホント、タフだと思う』
彼はいつもそういうけれど、本当にそうなのかな。自分じゃよくわからない。
青信号に変わって再び歩きだす。
俺と居て、イノちゃんがちょっとでも幸せだって思ってくれたら、いいな。
あれこれと買い物をして、イノちゃんの自宅の前についたのは、昼過ぎだった。
当初の予定よりだいぶ早い時間だから、合鍵も貰ってるけど、携帯を鳴らしてみる。
まだ寝てるかな、と思った時割としっかりした声がした。
「隆ちゃん?どしたの?」
「寝てなかった?」
「うん、いま掃除してた」
「そっか、あのね午後の仕事が変更になって、今日はもう俺オフになっ・・・」
「早く来られる!?」
珍しく言葉を被せるように、電話口でイノちゃんの声が弾んでる。
嬉しいって、思ってくれたのかな。
「えっと、じつはもう、イノちゃん家の前・・・」
「早くおいでっ!」
「う、うん!」
「おいで。鍵開けて待ってるから」
「っ・・・」
最後の言葉は囁くようで、何となく熱がこもっているように感じて、通話を切ると、浮き立つ気持ちを抑えて部屋へと向かった。