小話《短編集》
□ハロウィーンの夜
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この日ばかりは街中に溢れてる。
子供も大人も、魔女もおばけも。
ジャック オ ランタンが笑ってる。
「なぁなぁ!隆!これやるよ」
「えー?なぁに?スギちゃん」
今日は撮影の日。メンバーみんなスタジオに集合していた。
俺は先に撮影を終えて、集合での撮影まで控え室で休んでいたら、同じように休憩に来たスギちゃんが、話しかけてきた。
スギちゃんは、可愛らしいカボチャの絵のついた紙袋を俺に差し出した。
カボチャを見て思い出す。
あ。今日はハロウィーンだ。来る時に、着飾った若い子や小さい子が通り過ぎるのを見たっけ。
仕事に集中すると、ついつい忘れてしまう。
スギちゃんから紙袋を受け取って、中を覗いてみる。
「わあっ!」
「それさあ、ここ来る前に寄ってきた、仕事のスタッフの子からもらったの。俺より隆の方が喜びそうだし、良かったらもらって?」
スギちゃんがくれた紙袋には、たくさんのお菓子!女の子が喜びそうな可愛いラッピングで、全部見えないけど、なんか色んな物が詰まってるみたい!
「スギちゃんありがとう!嬉しいな、なんか開けるのワクワクするね」
「良かった!後でイノとさ、食べてよ。今日は一緒帰るんでしょ?」
「え?」
「ん?」
「スギちゃん、なんでわかるの?今日、イノちゃん家行くって…」
ホント、なんでわかるんだろう。
俺言ってないのに…。
よっぽど俺が驚いた顔していたのか、スギちゃんはしばらくして、ニヤリと口元で笑った。
「そりゃーわかるよ、お前ら見てたらさ。雰囲気がルンルンしてるもん。それに今日はハロウィーンだしな?」
…ルンルンって。そんなに俺たち顔に出てるのかなぁ。それって…ちょっと、恥ずかしいかも。
それに、今日がハロウィーンだからって約束した訳じゃない。たまたま今日が日程の都合が良かったから。
少なくとも俺は。
…でも、もしかしたらイノちゃんは、ハロウィーンだから、会いたかったのかなぁ。
そんな事をあれこれ考え込んでいたら、スタッフからお呼びがかかった。
これから集合しての撮影。
俺は紙袋を棚に置くと、スギちゃんと共に撮影スタジオに向かった。
「隆ちゃん、じゃぁ行こうか。」
着替えを終えて、帰り仕度をしているとイノちゃんが来た。
「もう出られる?」
「うん、平気だよ」
にっこり笑って応えて、持って来たバッグを手にする。
そうだ、スギちゃんにもらったコレも。
「それ、なに?」
「お菓子たくさん!スギちゃんがくれたんだよ。後でイノちゃんも一緒に食べようね!」
イノちゃんはチラリと中を見て、苦笑いをして頷いてくれた。
…甘い物が苦手って知ってるけど、少しだったらいいよね?
3人に挨拶をして、俺とイノちゃんはタクシーに乗り込んだ。
10月も最後の日。夕方だけど、もう暗い。
でも今日は至る所で、オレンジの灯りが揺らいでる。
「ハロウィーンだね」
車窓から街並みを眺めていたイノちゃんが、楽しげな声で呟いた。
「俺、すっかり忘れてたんだ。さっきスギちゃんに、これ貰うまで。」
「まあ、仕事入ってるとね、忘れちゃうよ」
「ねえ……イノちゃんは、ハロウィーンだから、会いたかったの?」
こんな一大イベントを忘れていた事が、なんとなく後ろめたくて。
イノちゃんが、楽しみにしていたとしたら、申し訳ないな…と思って。
そっと、イノちゃんを見た。
「そんなの気にしないの。会いたいから、会うんだよ?」
「イノ…」
「でも、まあ」
「?」
「隆ちゃんの仮装は、見てみたかったなあ」