小話《短編集》

□ハロウィーンの夜
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イノちゃんの部屋にお邪魔して、早速夕飯を食べる。
途中TVをつけて、ちょうどやってたお笑い番組に、2人で笑って。その次のスポーツニュースで、今日の試合の結果を見て。
その頃になると、ちょっと眠くなってきてしまったから、ちょっと眠気覚し。

「イノちゃん、先にシャワー浴びて来ていい?」

「いいよ、タオル出そうか?」

「ううん、わかるから大丈夫。借りるね?」

「うん」

勝手知ったるイノちゃんの家。俺がいつも貸してもらうタオル。着替えはこの間家から持って来た。

シャワーを浴びたら、少し頭がすっきりしてきた。
そして、スギちゃんに貰った物を思い出す。

イノちゃんもシャワーから出てきたら、一緒に食べよう。
ハロウィーンらしい事なんて、なんにもしてない。
さっきのタクシーでの会話を思い出す。

…イノちゃんは、やっぱり少し、楽しみにしていたのかな。


イノちゃんと交代で、待ってるあいだに袋を開ける。
キャンディー、クッキー、マシュマロ、チョコレート。甘そうな物が続々と出てくる。

「あれ、これは?」

お菓子の底に何か入っている。袋を逆さにしてみると、出てきたもの。

「黒…猫の耳?」

黒いフサフサした、女の子が着けたら可愛いだろう猫の耳がついたカチューシャ。

「うわぁ…」

手にしているだけで、なんか恥ずかしい。
スギちゃんは知ってたのかな…いやでも。貰ったって、言ってたし。

『隆ちゃんの仮装は、見てみたかったなあ』

こんな時に、またまたさっきの会話を思い出す。

「でも、さすがに…これは…」

恥ずかしいと思う。

それに。女の子じゃないんだから、似合うわけがない。

……………。

……………………


そっと、自分の頭につけてみる。
恥ずかしくて、顔が熱くなるのがわかる。
…でも。イノちゃんの言葉が、ずっと消えなくて、こんなのが仮装になるのか分からないけれど。

もしも、喜んでくれるなら。
なにもしてあげられなかったから。
いいかな…と思った。


ベッドの上に背を向けて座る。
何て言うだろう。
喜んでくれるかな。
それとも、微妙な空気が流れるのかな。…それはキツイな


「隆ちゃん?どしたの、こんな暗い部屋で…」

「ーーーーーー………っ」

「隆ちゃん?」

イノちゃんが近づいてくるのがわかる。薄暗いから、まだ気づいてない。

肩に手がかかって、そっと反転させられる。そうしたら、イノちゃんが息を止めるのがわかった。

何か言われるのが恥ずかしくて、照れ隠しで、イノちゃんの首元に抱きついた。

「っ隆ちゃん、」

「か…仮装。」

顔が見られなくて、隠していたのに。顎に指をかけられて、上を向かせられる。

「かわいい」

「うそだ」

「うそじゃない」

かわいいよ?

イノちゃんは本当に嬉しそうに笑って、抱きしめてくれた。
その腕が、あたたかくて、優しくて。
愛おしくて、縋りついた。


「りゅう、」

「え?」

「こんなの見せられてさ。我慢できないよ?」

「いの…」

「隆ちゃんありがと、愛してるよ」

イノちゃんのキスが落ちてくる。
啄むように繰り返していたら、目が合って。今度はもっと深くまで、求め合う。
大好きな、イノちゃんとのキス。
気持ち良くて、頭の芯が痺れてくる。
たまらない気持ちを返したくて、イノちゃんに全てを曝け出した。



「イノ…ちゃんっ だいすき…だよっ」



切れぎれの声で、精一杯の気持ち。
普段は恥ずかしくて出来ない事も、なかなか言えない想いも。

こんな不思議な夜なら、言えるんだ。

大好きな、あなたの為なら。






end



おまけ編が、出る予定…


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