小話《短編集》
□ハロウィーンの黒猫
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真夜中に目が覚めた。
ぼんやりする頭で、目が暗闇に慣れるまで、瞬きを繰り返す。
フト、肌寒さを感じて、自分が何も身に着けていない事に気が付いた。
(あぁ、そうか。)
思いあたって、ここに在るはずのものに、目を凝らした。
月明かりの、青い室内のベッドの上。
自分の隣で、丸くなるように眠っているのは。
黒い耳、黒い毛並みの綺麗な猫。
……いや。間違えた。
俺の大事な、恋人。
今夜だけ、黒猫の隆。
いまだ耳を生やしたまま、スヤスヤと気持ち良さそうに眠る隆に、口元が綻んでしまう。
数時間前の事を思い出したら、おもわず、くっくっ、と笑みが溢れた。
( かわいかったなぁ )
ハロウィーンをすっかり忘れていた事を、気にしていた隆。
そんなこと、俺は全然気にしてないのに。
だから、あえてハロウィーンの事に、あまり触れないでいたら。
隆は俺の前で、かわいい黒猫になってくれた。
暗闇のベッドの上で、恥ずかしさを我慢して、俺を見ていた。
頬を染めて、瞳を潤ませて。
( ホント、どんだけかわいいの。俺の恋人は )
そっと手を伸ばして、無造作に散らばる黒髪に、優しく触れる。
さらさらと撫でていたら、隆が小さく身じろいだ。
「 ん…」
「隆?」
( 起こしちゃったかな )
まだ寝てな。と、むき出しの肩をさすると。
「 イノ…、ちゃ…?」
小さな声と共に、隆の瞼がゆっくりと開いた。
「ごめん、起こしちゃった。まだ寝てていいんだよ?」
「…イノ…ちゃんは?」
「少し、起きてるよ。目、覚めちゃったから」
「…向こう、行くの?」
「ここにいるよ、だからもうちょっと寝てな?」
掛け布団を引き寄せて、ぽんぽんと、肩をたたいてやると、隆がふるふると首を振った。
「俺も、起きてる。」
「え?」
「イノちゃんと一緒に」
「でも隆、まだ…暗」
「まだ夜、終わってないよ。朝になるまで、ハロウィーンは続くよ。俺も…」
「………隆ちゃん?」
「俺もまだ、黒猫のままだよ」
隆はそう言って布団から抜け出して、
身体を起こしている、俺の前に座ると。
そっと唇を、重ねてきた。
滅多にない、隆からのキス。
「…ん、っ」
俺もすぐに、夢中になる。
荒い呼吸の中、隆が言った。
「もっと、したい。」
恥じらうくせに。かわいく、妖しいこの黒猫。
俺の理性なんて、一瞬で消え失せる。
少々乱暴に肩を押して、再びベッドに押し倒す。
「いいよ、もっともっと愛してあげる。」
「うんっ、」
「朝まで…」
この不思議な夜が、消えるまで。
Happy Halloween