小話《短編集》

□赤い葉っぱと黄色い落ち葉…#
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季節は秋。



秋から冬に変わろうとしているこの季節。
空が高く感じて、空気がひんやりして。街の街路樹も、緑から赤や黄色に色づく季節…
あと何と言っても、ギターがいつも以上に良い音で鳴ってくれる季節。
俺は大好きだ。






そんな秋のある日。






「うわぁ ‼ イノちゃん見て見て!」



天気も上々の昼下がり。
隆の良く通る声が、紅葉した山々に木霊し……………ない。





「………」


「綺麗だねー!やっぱ秋になったら紅葉狩りとかさ、行きたいよねぇ」



隆はウットリと、眼前に広がる紅葉の様子を眺めて言った。


…………テレビの旅番組の。





「………隆…。」

「ん〜?なにイノちゃん」

「や。……まぁ、いいけどね…」

「なんだよー、いいじゃん別に。行きたいなって思うくらい」



いくら俺でも、今は行けない事くらい分かってるよー!…と。多少不貞腐れ気味にそっぽを向く、隆。







そう、今は無理なんだ。
ルナシーのレコーディングが佳境に入っていて。とてもじゃないけど、のんびり紅葉狩りなんて行ってる暇は無い。レコーディングが終われば、そのままプロモーションが始まる。
それが終わればライブのリハだ。
散策に出られる時間が取れる頃には、冬景色になっていそうだ。




「…………」




スタジオに備え付けてあるテレビに、壮大な紅葉の景色が写し出される度。まだ未練があるのか、時々チラチラとテレビを目で追う隆を見ていたら、少し可哀想になってしまって。




( でも、どうしようもないしなぁ…)




恋人として、どうにかしてあげたいと思うけど…。


「…………。」


うーん…。と、しばらく思案を巡らせると、フト。いい考えが浮かんだ。
咄嗟にスタジオを見回して、今なら行動出来ると判断した。
スギちゃんが集中してる今なら!

俺はスッと立ち上がって、一番近くにいた真ちゃんに耳打ちする。




「少しだけ、隆と抜けるね」

「うん?ああ、いいけど。どっか行くの?」

「まぁ、ちょっとね?」

「ん。あんま、遅くなんなよ〜」


返事の代わりに親指でサイン。真ちゃんはニヤニヤして手を振ってくれた。
…バレたかな…。



スタジオの片隅で、相変わらずテレビを気にしている隆の手を掴む。




「びっくりした!」

「ちょっと、来て」

「え、イノ…」

「今なら平気だから。ちゃんと許可?も取ったし」

「?なにが…?」




隆の手を引いて、スタジオの廊下をぐんぐん進む。心持ち、自分の足運びも浮き立っているのが分かって。俺自身も楽しみなんだと気が付いた。


若干困惑気味の隆に、にっこり笑って教えてあげた。





「デート♡行こ?」
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