小話《短編集》

□おやすみ
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おやすみ






通知と共に表示される、いつものタイトル。
今夜もだいぶ早い夜の時間に、無情にも届いたのだった。








隆の就寝時間は早い。


歌い続けるために、人一倍身体に気を遣っている隆だから、当然の事なのかもしれない。



……しれないけどさ…。










今夜はスギゾーと真ちゃんと。3人合同での動画配信の仕事だ。




新曲を携えての、久しぶりの3人トークの仕事。今回参加しない隆もJも楽しみだね〜なんて言っていたから、自ずとこちらの気分も盛り上がる。








「隆ちゃん、俺と一緒に出ても良いんだよ?」

「あはは、ダメだよぉ。皆んな3人の酔っ払いトーク楽しみにしてるんだから」



俺とJ君が混じったら真面目になっちゃう。そう言いながら隆が首を横に振ったのが、数日前。


まあ確かに…。隆とJはとても真面目だと思う。俺ら3人がグダグダになると、やんわり軌道修正する。でも心の底では熱い。
そんなところ、隆とJはよく似てると思う。




俺はうーん…と唸りつつ。
それならと、顔を上げる。





「じゃあさ、隆ちゃん家で見ててくれる?」

「えー?」

「なんとかギリギリ、起きてられる時間じゃない?」

「うーん…。まぁ、ね?」

「じゃ、決定!俺頑張るから!」

「何を、どう頑張るのさ」

「スギちゃんと真ちゃんの脱線し放題に‼ 俺必死に軌道修正するから!」

「あはははっ!」




隆はにこっと笑うと、頑張って。とキスしてくれた。









……そう言っていたはずなのに。



番組本番中に俺のスマホに届いたのは、隆のおやすみ≠セった。



そこを境に呑むペースが早くなった気はする。



やっぱり眠くなっちゃったのかな…。
明日の事を考えて、もう寝たのかな。
ライブも近いもんな。
無理はできないよな…。



そんな色んな事を考えつつも、どこかガッカリしている自分がいて。

これくらいの事で気落ちしてる自分が情けなくて。
でも、惚れた弱み?惚れた相手。好きだから見てて欲しいって思うのも、仕方ないよね…。







呑んで喋って、呑んで語って。
いつの間にか、エンディング。

帰る頃、真ちゃんの目は閉じかけてて、スギちゃんはこれから絶好調!な感じだった。




お疲れ、またね。って手を振って、マネージャーの車で家に帰って、挨拶をすると外に出る。




すると、あれ?
リビング、電気点いてる?

外から見てもわかる。煌々と点いた、部屋の明かり。




( 点けたままだったっけ )




少し酔いの醒めた頭で、出がけの事を思い起こしながら、鍵を開ける。







「‼」






この靴。

…来てんの?





玄関に並んだ靴で、点いた明かりの原因がわかる。
急く気持ちを抑えて、俺はリビングに進んだ。








「隆ちゃん…」






ガラステーブルの上にはスマホがあって。ホワホワと湯気を漂わせる加湿器。ガラスポットには紅茶が入って、小皿に数枚のクッキー。
傍らのソファーには、ブランケットに包まって、すやすやと眠る隆が居た。





これだけで。
見てわかる。




眠気と闘いながら、見ててくれたんだって。
そしてついに、寝ちゃったんだって。







おやすみ≠セけで。
ガッカリしてた自分が、心底情けない…。
用意周到に準備して、ちゃんと見ててくれた隆が、愛おしくて。
抱きしめようと思った…けど。


まだダメだ。


外から帰ってうがいしてないし、手も洗ってない。
上着も脱いでない。



まず風呂に入って来よう。




風呂から出たら、隆を抱き上げてあげよう。
一緒にベッドに入ったら、優しく抱きしめてあげよう。
それで、起きても、起きなくても。
心を込めて、キスをしよう。





隆ちゃんありがとう。
こんな、嬉しいご褒美をくれて。


俺今日、頑張ったでしょ?
途中から、酔っ払ってきたけど。
…ちょっと、情け無い俺にもなっちゃったけど。



楽しかったよ。
隆も、楽しんでくれたかな。
今度はさ。
隆もJも、一緒に出ようよ。

そんな話、目が醒めたら。
笑いながら、話そうね?







「おやすみ、隆ちゃん」






end .


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