小話《短編集》

□みんなの真ん中。
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「おはよう隆ちゃん」






俺が一番乗りだと思ってたのに、楽屋に着くとイノちゃんがいた。
抱えていたギターを傍らに置くと、ニコッと笑ってくれた。




「おはよう。イノちゃん早いね、いつ来たの?」

「んー。でも20分位前だよ」




そっかぁ。と言いつつ荷物を置いて。
イノちゃんの座ってるソファーの向かい側に回ろうとしたら、隆ちゃん。と手招きされる。




「こっち。来て」

「うん?」

「いいから早く」



自分の座ってる隣をペシペシと叩いて、待ち切れなさそうなイノちゃん。


こんなに広いんだから隣じゃなくても…と思ったけど。こういう時イノちゃんは引かないことを知ってるから、そのままイノちゃんの隣に腰を落ち着けた。





「………」

「………」

「………」




何を言うでもないイノちゃんに。
もうっ !何のために呼び寄せたんだよ、と。隣をキッと見たら。





イノちゃんスマイルが…。


あの。蕩けそうな、クラクラしちゃいそうな、イノちゃんの笑顔が…。


この至近距離で…。





見慣れてるハズなんだけど…。目のやりどころに困っていたら、イノちゃんの両腕が伸びて。
ぎゅう…っと、抱きしめられた。




「っ…」




無言のまま抱きしめられていたら。




「隆ちゃん」

「ん?」

「隆ちゃん」

「…うん?」

「隆ちゃん…隆、」



隆ちゃん、隆ちゃん、と。それしか言葉を知らないみたいに、イノちゃんは俺の名前を繰り返す。




「イノちゃん…?」



どうしたんだろう…と。イノちゃんの背にそっと触れると。
腕の力を緩めて、イノちゃんは真っ直ぐに俺を見つめてきた。


その瞳は優しくて。でも、切なさが混じってる。




「イノちゃん?」

「ん?」

「…イノ?」

「…ん。」




どうしたの?と問いかけたら、観念したみたいに、もう一度抱きしめられる。





「俺ね。隆ちゃんと一緒に居られるのが、超幸せで、うれしくて。隆ちゃんとの時間、一瞬も無駄にしたくなくて」



だから今日は、隆ちゃんより早く来たかったんだよ。
そう言いながらイノちゃんの指先が、俺の髪に埋め込まれる。

隆ちゃん大好き。ってイノちゃんは何度も撫でてきて。
それがあんまり切ない声で言うもんだから。






「ーーーーー…」





それを聞いたら。

イノちゃんの声を聞いていたら、なんか。わかってしまった。







今年俺は、色んな事があった。


歌い続けるために、必死で。必死で。

歌うことを守りたくて。

手放したくなくて。

ただ必死で、駆け抜けた。



心配かけたくなかったけれど。

やっぱり、心配させてしまって。

とりわけ、この恋人は。
支えて、奮い立たせてくれた。

溺れそうな時、手を繋いでいてくれた。




ごめんね。
心配かけて。

でも。

嬉しかったよ。

もう、大丈夫だよ?







「イノちゃん」

「ん?」

「俺ね?」

「うん?」




ぎゅっ…と、イノちゃんの服を握りしめる。




「歌うことが、大好き」

「うん」

「イノちゃんと、Jと、真ちゃんと、スギちゃんの音に囲まれるとね」

「うん」

「すごく、気持ちいいんだ」

「うん」

「気持ち良くて、苦しくて。愛おしいんだ」




「うん…。俺も」

「ぅん?」

「みんなの真ん中で、歌ってる隆ちゃんね」

「ん?」

「すっげえ綺麗」

「う?」




真面目な話してると思ってたのに、なんか空気が変わった気がしてイノちゃんの顔を見ると、不敵な笑みを浮かべてる。
あれ…?
…さっきと全然違うんだけど…。






ちゅ…っと、不意打ちにキスをされる。


「っ…!」



ちょっとっ!と暴れると。イノちゃんはめちゃくちゃ楽しそうな顔して、ソファーの上で俺を羽交い締めにしてキスは深くなる。



「っん……ぁっ…」



イノちゃんは俺の気持ちいいところを知っている。
舌が絡まると、たまらなくなって自分からも求めてしまう。



「…ンっ…」

「隆ちゃん…っ」

「…ん…?」




唇が離れて、イノちゃんの笑顔が視界にはいってきた。
さっきの切なさは無い。でも、やっぱり優しくて、頼もしい笑み。





「まわりは、俺たちに任して」

「…ん」

「歌って」

「うん…っ」




イノちゃんの言葉が嬉しくて、恋人とのキスも気持ち良くて。
ここが楽屋ってことも吹き飛ぶくらい、2人で没頭する。
そうしたら。

ゴホン。と、頭上から咳払いが聞こえて、見上げた先に。


いつの間にか来ていた3人。
呆れ顔の。



イノちゃんは、あっけらかん、としてたけど。
うぅ…。恥ずかしいったら!
いつからいたんだよ。
…時間経つの早いよね。





















割れんばかりの声。
高まる熱量。


ステージ袖で、手を繋ぐ。



熱い手の感触が伝わってくる。

数分後の音に、想いを馳せる。

最高に気持ちいい。

窒息しそうなくらい苦しくて。

目眩がする程愛おしい。



みんなの真ん中。




「俺の居場所」








end


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