小話《短編集》
□クリスマスのふたり。
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「隆ちゃん!メリークリスマース♬」
とってもご機嫌な様子で、事務所のメンバールームに入って来たのは真ちゃんだ。
そしてその後に続いて、Jとスギちゃんも。
「皆んなおはよう!真ちゃん…まだお昼だよ?」
気が早い〜って笑うと、真ちゃんは首を振りながら俺の隣に寄って来た。
「だって隆ちゃん、クリスマス会えないじゃん?俺だって本当はサンタになって、隆ちゃんにプレゼントあげたいんだけどさ」
「…うん?」
「でも隆ちゃん、今夜はさ…」
「イノが隆を離すわけないもんなぁ」
心無しかいじけた様子の真ちゃんに引き継いで、スギちゃんとJが、うんうん…と頷いた。
…そう。俺は今夜、イノちゃんと会う約束をしているんだ。
《隆ちゃん、イヴとクリスマス。一緒に過ごそう?》
数週間前に誘ってくれた時の、イノちゃんの輝くような笑顔を思い出して、つい顔が緩んでしまう。
年末は仕事も圧縮されたみたいに、たくさんあって。加えてライブのリハや打ち合わせなんかがあると、プライベートの事は、ついつい追いやられがちになってしまう。
ついこないだハロウィンの時にも、ハロウィンを忘れるという失態をしたばかりだ。
(忙しいと行事を疎かにしちゃうの…気をつけよう…)
だからクリスマスこそは!と自分なりに準備を進めていた。
時計を見ると、まだ余裕ある時間。この場所なら、プレゼントを買って行くのにちょうどいい。場所も通り道だ。
イノちゃんへのプレゼントは、随分前に決めていた。オフの日に、ひとりで悩み歩いたんだ。その時買っても良かったけど、クリスマスまでまだ数週間あったから。
直前で買った方が、街のクリスマスでワクワクした空気とか、俺自身の気持ちとか。新鮮なまま一緒にラッピングされる気がして、今日まで用意しなかった。
(よしっ!)
仕事を早く終わらせて、買いに行こう。そして、今日は別の仕事に行っているイノちゃんと、待ち合わせをするんだ。
主に色々なチェックをする仕事を終えて、マネージャーと来月以降の打ち合わせ。
かなりのハイスピードで仕事をこなして、まだ残っている3人に挨拶をする。
「じゃあ、先に出るね。お疲れ様!」
おー。お疲れ!と言いながら、3人はそれぞれ立ち上がって、ごそごそと荷物を探る。
「?」
「はい!隆ちゃんメリークリスマス☆」
「真ちゃん!」
「ん。俺も」
「え。Jも⁉」
「もちろん俺も!」
「スギちゃんまで!」
あっと言う間に両手にプレゼントが積まれてビックリしたけど、すごく嬉しいよ‼
皆んなありがとう‼ってお礼を言うと、満足そうに笑ってくれた。
せっかくくれたんだから、ここで開けようとしたら、激しく止められた。
「これはイノと開けてな」
「そうそう!やっぱクリスマスになんないとさ」
「必ず!イノ一緒に見るんだぞ‼」
「う…ん…?」
3人の珍しい程の威圧感に口ごもる。
な…何なんだろ…。
なんか変だな…と思ったけど、そんな事言ったら悪いから。もうそろそろ時間だったし、3つのプレゼントを抱えて事務所を出た。
「う〜…寒いっ」
待ち合わせの場所まで、12月の夜の街を歩く。
夜の7時頃。イルミネーションがずっと続く道を進んでいく。
綺麗だなぁ。クリスマスだなぁ…なんて思いながら。いつもより景色を眺めて上向き加減でいたら、もう待ち合わせ場所の目の前だった。
大きなクリスマスツリーが立っているその場所は。
小さな噴水や、ベンチも点在していて、もちろんキラキラとイルミネーションも輝いて。
カップル達の待ち合わせ場所みたい。
待ち人を探す、カップル達に混じって。俺もイノちゃんを探さないと…とチラチラと周りを見回す。
( んーー…)
まだほんの少し早いから、まだ来てないかな?
見渡した感じ、イノちゃんらしい人は居ない。
もう少しかなぁ…と思っていたら。
ぐんっと、後ろから腕を掴まれた。
「‼?」
ビックリして振り返ったら…
「見っけ。」
「‼ーーーーっ…イノちゃん」
「こんばんは、隆ちゃん」
思わず、くっ…と、息を止めてしまった。
目の前には、口の端をニコっと上げた
イノちゃん。
もうっ !ホントにビックリしたよ。
「隆ちゃん、驚きすぎ」
「だってっ …」
「……隆」
「っ …」
スッ…とイノちゃんは間合いを詰めて、ほんの隙を突いて、俺の頬に指先を這わせた。
イノちゃんの視線はじっと俺に向けられて、その瞳にはイルミネーションのキラキラした光が映って。見つめられたらドキドキしてしまう。
何も言えず口を噛みしめる俺を見て、イノちゃんはもう一度にっこり笑って言った。
「隆ちゃんの目の中、キラキラ」
「ーーー……っ…」
「超かわいい」
もうっ ‼ だから何でそう……格好いいんだよっ!
そんな事言われて、あんな笑顔向けられたら、ますます何も言えない。
かぁ…っと、顔が熱くなって俯いて何も言わなくなった俺に、イノちゃんはやれやれ…と、ため息をついたらしい。笑いを含んだ空気が目の前から感じられた。
「さ。じゃあ隆ちゃん、行こうか」
イノちゃんの表情がとっても楽しげに緩んで。それを見て、俺もやっと微笑んで見せた。
「うん」