小話《短編集》

□クリスマスのふたり。
1ページ/2ページ









「隆ちゃん!メリークリスマース♬」



とってもご機嫌な様子で、事務所のメンバールームに入って来たのは真ちゃんだ。

そしてその後に続いて、Jとスギちゃんも。



「皆んなおはよう!真ちゃん…まだお昼だよ?」



気が早い〜って笑うと、真ちゃんは首を振りながら俺の隣に寄って来た。



「だって隆ちゃん、クリスマス会えないじゃん?俺だって本当はサンタになって、隆ちゃんにプレゼントあげたいんだけどさ」

「…うん?」

「でも隆ちゃん、今夜はさ…」

「イノが隆を離すわけないもんなぁ」



心無しかいじけた様子の真ちゃんに引き継いで、スギちゃんとJが、うんうん…と頷いた。



…そう。俺は今夜、イノちゃんと会う約束をしているんだ。



《隆ちゃん、イヴとクリスマス。一緒に過ごそう?》


数週間前に誘ってくれた時の、イノちゃんの輝くような笑顔を思い出して、つい顔が緩んでしまう。


年末は仕事も圧縮されたみたいに、たくさんあって。加えてライブのリハや打ち合わせなんかがあると、プライベートの事は、ついつい追いやられがちになってしまう。
ついこないだハロウィンの時にも、ハロウィンを忘れるという失態をしたばかりだ。




(忙しいと行事を疎かにしちゃうの…気をつけよう…)



だからクリスマスこそは!と自分なりに準備を進めていた。


時計を見ると、まだ余裕ある時間。この場所なら、プレゼントを買って行くのにちょうどいい。場所も通り道だ。

イノちゃんへのプレゼントは、随分前に決めていた。オフの日に、ひとりで悩み歩いたんだ。その時買っても良かったけど、クリスマスまでまだ数週間あったから。

直前で買った方が、街のクリスマスでワクワクした空気とか、俺自身の気持ちとか。新鮮なまま一緒にラッピングされる気がして、今日まで用意しなかった。



(よしっ!)



仕事を早く終わらせて、買いに行こう。そして、今日は別の仕事に行っているイノちゃんと、待ち合わせをするんだ。




主に色々なチェックをする仕事を終えて、マネージャーと来月以降の打ち合わせ。
かなりのハイスピードで仕事をこなして、まだ残っている3人に挨拶をする。



「じゃあ、先に出るね。お疲れ様!」



おー。お疲れ!と言いながら、3人はそれぞれ立ち上がって、ごそごそと荷物を探る。



「?」



「はい!隆ちゃんメリークリスマス☆」

「真ちゃん!」

「ん。俺も」

「え。Jも⁉」

「もちろん俺も!」

「スギちゃんまで!」



あっと言う間に両手にプレゼントが積まれてビックリしたけど、すごく嬉しいよ‼
皆んなありがとう‼ってお礼を言うと、満足そうに笑ってくれた。

せっかくくれたんだから、ここで開けようとしたら、激しく止められた。



「これはイノと開けてな」

「そうそう!やっぱクリスマスになんないとさ」

「必ず!イノ一緒に見るんだぞ‼」



「う…ん…?」



3人の珍しい程の威圧感に口ごもる。
な…何なんだろ…。

なんか変だな…と思ったけど、そんな事言ったら悪いから。もうそろそろ時間だったし、3つのプレゼントを抱えて事務所を出た。









「う〜…寒いっ」




待ち合わせの場所まで、12月の夜の街を歩く。
夜の7時頃。イルミネーションがずっと続く道を進んでいく。
綺麗だなぁ。クリスマスだなぁ…なんて思いながら。いつもより景色を眺めて上向き加減でいたら、もう待ち合わせ場所の目の前だった。

大きなクリスマスツリーが立っているその場所は。
小さな噴水や、ベンチも点在していて、もちろんキラキラとイルミネーションも輝いて。
カップル達の待ち合わせ場所みたい。



待ち人を探す、カップル達に混じって。俺もイノちゃんを探さないと…とチラチラと周りを見回す。



( んーー…)


まだほんの少し早いから、まだ来てないかな?
見渡した感じ、イノちゃんらしい人は居ない。
もう少しかなぁ…と思っていたら。
ぐんっと、後ろから腕を掴まれた。



「‼?」


ビックリして振り返ったら…



「見っけ。」

「‼ーーーーっ…イノちゃん」

「こんばんは、隆ちゃん」




思わず、くっ…と、息を止めてしまった。
目の前には、口の端をニコっと上げた
イノちゃん。
もうっ !ホントにビックリしたよ。



「隆ちゃん、驚きすぎ」

「だってっ …」

「……隆」

「っ …」



スッ…とイノちゃんは間合いを詰めて、ほんの隙を突いて、俺の頬に指先を這わせた。
イノちゃんの視線はじっと俺に向けられて、その瞳にはイルミネーションのキラキラした光が映って。見つめられたらドキドキしてしまう。


何も言えず口を噛みしめる俺を見て、イノちゃんはもう一度にっこり笑って言った。



「隆ちゃんの目の中、キラキラ」

「ーーー……っ…」

「超かわいい」



もうっ ‼ だから何でそう……格好いいんだよっ!
そんな事言われて、あんな笑顔向けられたら、ますます何も言えない。

かぁ…っと、顔が熱くなって俯いて何も言わなくなった俺に、イノちゃんはやれやれ…と、ため息をついたらしい。笑いを含んだ空気が目の前から感じられた。



「さ。じゃあ隆ちゃん、行こうか」




イノちゃんの表情がとっても楽しげに緩んで。それを見て、俺もやっと微笑んで見せた。



「うん」
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ