小話《短編集》

□大好きな君と!
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今年最後のソロライブが終わって。
家に帰り着いたのは、すでに日付けが変わった後だった。










うだるような暑い夏の真っ只中に、世に送り出した新しいソロアルバム。
隅々まで音楽愛に溢れた、とても大切なアルバムになった。
一緒に作ってくれた仲間たちとの想い出も満載だ。
その後続いた全国ツアーも、本っ当に楽しかった‼

だから、誕生日のツアーファイナルを終えた後は、何というか…寂しくて…。演り足りなくて。

今年の年末締めのファンクラブ イベントは、ライブのおかわり‼ に決めた。



午前中シトシト降っていた小雨も、だんだんと止んできて。
トーク&ライブをイノラン・メンバーと、ファンの子達と心ゆくまで楽しんだ。


ライブが終わったら。
あー…。ホントのほんとにファイナルなんだなぁ…と。やっぱり寂しさもあるけれど、また来年の次の楽しみに向けて、たっぷりパワーをチャージした。


メンバー達と、打ち上げをして。酒を酌み交わす。早くまた、みんなと一緒にライブをしたい。
メンバー達もそう思ってくれていたみたい。
次への約束に、もう一度乾杯して。
俺の2019年が、終わりを迎えた。




…いや。
まだだった。

まだ、あるんだよ。









打ち上げを終えて、家に帰る。
酔った身体に、冷たい夜風が吹き付けて。寒…と。足早に部屋の前に着いて、玄関に入ると。





「⁉」





この靴。
…もしかして、今日も来てんの?



俺が酔って帰ると来てるパターン。
今回もそうなのか…。
いやでも、彼は今日は…


酔った頭が一気に冴えて、いそいそと靴を脱いでリビングへ進む。
消して出たはずの部屋の電気……!やっぱり点いてる。







「…っ!」





思った(期待した) 通り、彼はそこに居た。
前もこんな事あったけど。彼。…隆は、ソファーの上で毛布に包まって、加湿器をセットして、すやすやと寝息をたてていて。
俺がそっと近ずいても、起きる気配は無い。


ジッと傍らにしゃがんで、その安らかな寝顔を見つめる。

シャワー使ったのかな。シャンプーのいい香りがして、髪もふわふわしてる。
きゅっと身体を丸めて、両手は胸の辺りで、赤ちゃんみたいにまとまって。
…睫毛長いなぁ…。口元もなんとなく、緩く微笑んでいるみたい。
全体的にほんわかした雰囲気の隆。



(あぁ…もうっ …かわいいなぁ…)



うっかり手を伸ばしそうになって、慌てて引っ込める。
そうだ。前も危なかったけど、まずは俺もシャワーだ。
特に今は、隆に変な風邪なんか、ひかすわけにいかない。
早く入浴してキレイになって来よう。


後ろ髪引かれつつ、来た時と同じように。俺はそっとリビングを出て、浴室へと向かった。













………………………



「……ぁれ?」



「ん?…あ、隆ちゃん起きちゃった?」


「……イノちゃん…?」




ベッドの中で、俺の腕に抱きしめられて眠っていた隆が、暫くするとぱちりと目を開けた。

まだしぱしぱ瞬きをして、状況が分からない様子の隆。
不思議そうな顔で俺を見る。

帰ったら隆がソファーで寝てたから、隆を運んで、一緒にベッドに入って15分位経ったところ。と、教えてあげた。

隆は、そっか…。と呟くと、今度は口元をにっこりさせて、俺に言った。



「お帰りなさい」



「ただいま隆ちゃん」




このやり取りが堪らなく好きな俺は、すでに幸せいっぱいだ。
さらに隆を引き寄せて、優しく問う。




「隆ちゃん、今日ライブなのに来てくれたの?」

「ん?…うん、イノちゃんにお疲れ様って言いたかったから」

「それで来てくれたんだ?隆ちゃんありがと」

「…ライブ、楽しかった?」

「すげぇ良かった。めちゃくちゃ楽しかったよ」

「ふふっ…イノちゃんの2019ってタイトル、ぴったりだったね。2019の数字見つける度に、楽しかった事思い出せちゃうね!」



隆はさらに笑みを濃くすると、もっと近くに擦り寄って来る。
隆の体温と匂いがさらに感じられて、ドキドキする。

ぎゅっと俺の背中に手を回してくっついて。おさまりのいい所が見つかったらしい隆は、顔だけ俺の方に向けて見上げて来た。





「イノちゃん」

「ん?」

「…あの…今日…」

「ーーーーー…わかってるよ?ちゃんと。隆ちゃんのライブ、行くからね」



何処となく揺れていた隆の瞳が、俺の言葉でぱあっと輝いた。
忘れてると思ったのかな…。
そんな訳ないじゃん!




「もう年越しはね、隆ちゃんとやらないと」

「ね。よく考えると、すごく贅沢で幸せなんだよ?だって…」

「年の最後と最初は一緒だもんな」

「そう、しかもステージの上で」




悪戯っぽく言う隆が妙に可愛らしい。
俺も対抗して、隆と額同士をくっつける。



「一年の計は元旦にありって言うじゃん。だから来年もいっぱい隆ちゃんといられるね」

「うん…。でも、全然足りないよ」

「え?」

「もっともっと一緒にいたいもん」

「ーーー…隆ちゃん…どしたの?」

「…どうもしない、もっと一緒にいたいなって」



恥ずかしそうに頬を染めて見上げる隆。
…なんだ?可愛すぎだよ。




「いいよ、もっと一緒にいよう?」

「うん」

「他のメンバーですら嫉妬するくらいな」

「ふふっ…うんっ!」




目の前でめちゃくちゃ嬉しそうに頷く隆が、愛おしくて。軽く肩を押して、上から覆い被さる。
隆は一瞬ハッとした顔をしたけど、俺のしたがってる事はすぐわかったみたいだ。
顔に赤色を滲ませて、そっと目を閉じる。布団に黒髪が散って、隆が呼吸する度上下する押さえた肩も。
煽られるにも程があって。

俺は微笑みながら、隆にキスをした。




「大切」

「…っん…?」

「っ…大好き」

「ぅんっ …」





俺もっ。って隆は縋って、もう止まらないキス。今日はライブだからここまで…って思っても。…もう無理そう。
だって大好きなんだ。






今年の始めは君と。
今年の最後も君と。
そして。来年の始めも、もちろん君と。


君とこうやって、ずっと一緒にいたい。一緒にいられた一年に感謝して、これから先も。
ずっとずっと、手を繋いで行こうね。






end


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