小話《短編集》

□ショコラ
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「はいっ スギちゃん、これあげる‼」




今日も朝から元気な隆。

ルナシー事務所のメンバールームに集まっている4人の隙間を、にこにこしながら仔犬みたいにパタパタ動き回っている。


見てて面白いな〜飽きないな〜。
ああもうっ 可愛いなあ〜と。
心の内を覗かれたら、他のメンバーに呆れられそうな事を考えてたら。
何やら隆が、メンバー達に何かを配りだした。

超夜型のスギゾーがそろそろ眠くなりだした午前中。
隆に何かを貰って、スギゾーの目がキラリと光った。



「え〜!なになに?隆からプレゼント?スゲー嬉しい!見てもいい⁇」


「もちろん!見てみて‼それで食べてみて!」


「食べ物なの?なんだろ」


「えっとね、真ちゃんとJにもね?はいっ!これどうぞ‼」



カサカサと、綺麗に包まれた小さな箱を開けるスギゾーの横で、隆は真ちゃんとJにも同様の物を渡してる。
リボンも付いてて、ちょっとしたプレゼントみたいで、2人もまんざらじゃ無さそう。すげえ嬉しそう。
つかホントに、何入ってんだろ…


ね。なんだろうね。




ーーーー…で?



「ん?」



じーっと見てた俺の視線を感じたのか。隆は小首を傾げて俺を見る。


だからそれ可愛いから。こいつらがいる前ですんな。
ーーーって、そうじゃなくて。



「え。隆ちゃん、俺は?」


「うん?」


「いやいや。俺には?無いの?」


「あー…。うん、無い」


「……」



そんなハッキリ…。
一応…どころか、かなりシッカリ俺、隆の恋人なんだけど…
そういうプレゼントって、まず俺からなんじゃないの?

あ、それかあれなのかな。いつもありがとう的なプレゼントなのか?
それならまあ、いいかな…。


俺がひとりでショックを受けたり、考え込んでる後ろで。
隆からのプレゼントに喜びの声を上げる3人。



「チョコ⁉もしかして隆のお手製?」


「そうだよ〜。ちょっと今ねぇ、色々試してんの。色んな種類の作ったから皆んなに感想聞きたくて。味は美味しいと思うんだけど…」


「いや、でもこれマジ美味いよ」


「ホント⁉」


「これも。中に酒入ってる?よく出来たな、こんなの」


「見た目もな、結構本格的」


「知り合いのショコラティエさんが教室やっててね、習ったんだ。結構通って、やっとこんなの作れるようになった」


「隆すごいじゃん」


「へへっ…良かった。美味しいって言ってくれて」






「ーーーーーー…あの」



「ん、イノちゃん?」



「俺も食いたい」



ひとりトーンの落ちた声の俺に、ここでようやく3人も俺だけ貰って無い事に気付いたらしく。
微妙な憐れみの目で俺を見てくる。



「一個ちょうだい」


「隆、イノには用意してないの?」


「ん?う…ん」


「え〜?なんで?」


「………だってさ…」



3人にも疑問の目を向けられて、隆は居心地悪そうに視線を彷徨わせる。
その途中で俺と目が合うと、ぼお…と顔を赤らめて、ぷいっと横を向いて。
そして渋々といった感じに、ポツリと呟いた。





「ーーーーー……バレンタインの…練習…で…」




へ⁇




「バレンタイン⁇」



隆は恥ずかしそうに頷くと、チラリと俺を見て言った。




「イノちゃん…甘いの苦手でしょ?で、あんまり甘くなくて、テキーラ入ってるのないかなぁって思って。…探したんだけど。ラム酒とかブランデーのは結構あるんだけど…テキーラってあんまり無くて…。だったら作れるようになっちゃえって…思って…」



「ーーーーーー」



「ごめんね、やっぱりイノちゃんが居ない時に内緒であげればよかったんだけど…3人揃って会える日、なかなか無いから」



「ーーー隆ちゃん…」



そんな事考えててくれたのか…と。
感激してしまって。
そんな理由があったんじゃ、今貰う訳にはいかないよな…。と思いつつも。

3人の手の内の、隆のお手製チョコを見たら。やっぱり欲しいと思ってしまう。

よほど俺が物欲しそうに見ていたのか。隆はクスッと笑うと、別の袋から小さなチョコのカケラを取り出した。



「テキーラ入りのは、バレンタインまで待っててね。…その代わり、イノちゃんにはこれあげる」



「?…それもチョコ?」



「もちろん!皆んなにあげたチョコの残りを固めたカケラだよ?」



にこにこしながらそう言った隆は、カケラをひとつ摘んで、俺の方へ差し出した。



「いただきます」


「ん。どうぞ」



隆が俺の口の中にチョコを入れてくれる。
…ホントだ。あんまり甘くない。
もぐもぐ咀嚼する俺を、隆はじっと見て食べ終わるのを待っている。



「美味しい?」


「美味いよ、これなら俺でも食える」



ゴクンと飲み込んで、ニッと笑いかけてやると。隆は嬉しそうに目を細める。
よっぽど嬉しかったのか、隆はまた一個取って、もうひとつ食べる?と目で問いかけてきた。

その弓なりに、微笑みの形になった隆の唇を見たら。
俺の中で、悪戯心が湧いてくる。


隆の手からチョコを奪い取って、隆の口に押し込んで。
びっくりして、目を丸くしている隆にキスをする。


ちらっと横を見ると、俺の行動を瞬時に察知したらしい3人は、既にどこかに退散済みで。心の中で手を合わせる。



重なった2人の唇の隙間で、チョコが溶けてどろどろになる。
いつもと違うキスの感触。
とろとろになった隆の唇を舐め上げると、甘い声が止まらなくなる。



「ンっ…ん……んっ 」


「……甘…」


「…んっ……も…イノちゃっ …」


「隆ちゃん、甘々」


「イノちゃんのせいじゃん!」


「もぅ、今から楽しみ!」


「え?」


「バレンタイン。もっとすごいのくれるんでしょ?」


「ーーーっ」


「色々。楽しみにしてるからな?」


「………イノちゃんのエッチ」


「悪い?」


「ーーーーー…悪くない」


「ふふっ…」



「…イノちゃん」



「ん?」



「……チョコ、もう一個」



食べる?





end


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