小話《短編集》

□電車に乗って。
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電車に乗って。
君と二人、どこまでも。










がたん…ごとん…
がたん…ごとん…

青空の。夕方寄りの午後。
電車は進んで行く。



隆と二人、電車に揺られてる。

車内は閑散としていて、静かだ。
乗客も、1車両あたり2〜3人くらいしかいない。

席はボックス席じゃない。
長椅子が、平行に並んでいる。
車両も4両編成だ。




隆はさっきから。というか、かれこれ30分くらい前から。
俺の肩に頭を預けて、すやすやと眠っている。

がたんごとん…と大きく揺れるたび、
隆がずり落ちそうになるから。俺は、肩を抱いて引き寄せる。

隆の体温とにおいが、強くなる。





「あとどんくらいなんだろ」



車内の向こうの端っこの壁に、路線図らしき物が見える。

でも遠い…。
しかも逆光で見えない。
見に行けば早いけど。
この、隆を抱いている状況を犠牲にしてまで、見たいとは思わない。




「まぁ、いっか。」



そのうち着くだろ。



そう、結論付けて。
俺も隆に、頭を傾ける。


はたから見たら。仲睦まじいふたりに見えるかな。

愛おしそうに寄り添う恋人同士に。
ちゃんと見えるといいなと思う。






「……ん…」




隆が身動いで。
無意識に彷徨った手が、俺の腕に触れる。


あったかい手。


子供みたいだ。

眠くて、あったかくなるなんてさ。








がたん…ごとん…
がたん…ごとん…





そもそも何で、二人で電車に乗っているかというと。


行ってみたいと、隆が言ったから。






昨日俺たちは、ライブだった。
全国ツアー。
すでに日程も半分以上過ぎた。

昨日は海沿いの地。
今日から3日挟んで、また次の地へ。


他の三人は、ライブが終わるとその足で、東京に戻って行った。別の仕事が間にあるからだ。


そしてその時に真ちゃんから聞いた情報によって。今こうして二人で、電車に揺られてる。






「金色の海岸はまだ?」


「!」






突然聴こえた隆の声で、俺はびっくりして隣を見た。
俺の肩に寄りかかったまんま。
上目遣いでこっちを見てる。
唇を少し尖らせて。



…だからそれ、破壊力抜群だから。
なんでも言うこと聞いてやりたくなるから。やめてくんない?


ぱちぱちと瞬きをして、じっと見てくる隆に。これ見よがしに盛大にため息をつく。そして反撃とばかりに、思い切り甘い声で、耳元で言ってやった。




「まだ。」


「っ …」





ビクリと身体が跳ねるのがわかって。思わずニコリと、口元を歪めてしまう。
そのまま軽く唇を重ねると、隆はジタバタと暴れ出した。




「イノちゃん!ここ!公共の乗り物の中!」

「大丈夫だよ。隆ちゃん見てみ?この車両、俺らだけ」

「そーゆう問題じゃないの!」

「はいはい」

「もうっ…」




怒られたけど…。あとで見てろ。
これから行く抜群の景色の前でリベンジだ。






「真ちゃん、終点の駅だよって言ってたよねぇ。あとどのくらいかなぁ」

「あそこに路線図」

「あ、ホントだ。ーーーちょっと見てくる」



そう言うと、隆は揺れに耐えながら、よたよたと見に行って。
しばらく路線図を見上げると、俺に向かって手で2≠ニやった。




「あと2個か。結構乗ったよね…。つか、帰りも乗るのか…」

「でもいいじゃない、こんなデートなかなか出来ないよ?了解してくれたマネージャーに感謝だね!」

「あと真ちゃん」

「そうそう!」




話逸れたけど。
電車に乗ってる理由は、金色の海岸に行くため。
真ちゃんが宿泊先のホテルのスタッフに聞いたらしい。

この路線の、終点駅の目の前に広がる海岸。
陽の沈む時間、空も海も。見事な金色になるのだとか。
そして好きな人と夕陽を見ると、幸せになれるのだそうだ。

俺と隆は急いで東京に帰る必要は無いと知って、真ちゃんが勧めてくれた。
そしてそれに隆が飛び付いたという訳だ。




幸せになれる…ねえ…





俺に言わせれば、好きな人とならどこにいたって幸せだ。
スーパーだって、コンビニだって。たとえばその辺の建物の通路だって、もちろんステージだって、どこだって。

俺は隆といれば、どこだって、なんだっていい。手を繋いで、こっそり隠れてキスなんかしたら最高だ。


同じ空間を共有できて、一喜一憂して。それが気持ちいいって思える瞬間。それが好きな人との幸せな時間なんじゃないかな。


そんな事を人知れず考えていたら。

間も無く終点の、アナウンス。


傍らの隆の表情も、パッと華やぐ。

その嬉しそうなカオを見て、俺も嬉しくなる。


そんなに俺と見たかった?
幸せの夕陽。


…聞かないけど





「イノちゃん早くっ !」



隆が俺の手を掴んで、電車の外へと引っ張って。そのまま先頭まで行くと、最終電車の時間を車掌に聞いた。




「夕陽見て戻っても、間に合うね」

「うん。どっから見る?」

「駅舎からでも綺麗だって言ってたよ」

「でもせっかく来たから、海岸まで行くか?」

「いいの⁉」

「いいよ、せっかくのデートでしょ?」

「うん!」
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