長いお話《連載》

□3…告白。
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スタジオから出て行った隆一の背中を見送ると。どっと力が抜けて、近くにあったイスに腰をおろす。

そして、はた。と横を見ると、こちらからも驚愕の3対の目。
間違いなく、見られていたな…と。
イノランは盛大な溜息をついて、なるようになれ…と背もたれに深くより掛かった。

しかし3人は何も言っては来なくて。
イノランはどこかホッとして、それぞれスタッフと作業をする。
その内隆一も戻って来て、今度はコーラス部分の録りを始めた。

作業しながら、イノランはスタッフと共にブース内にいる隆一を、ちらりと伺う。
集中しているのか、気づかずにスタッフと話している。
視線を外し、イノランも別の作業に集中する。

すると今度は。隆一がブースの中から、じっとイノランを見つめる。
そしてしばらくすると、視線を外す。

そんな事を、何度か繰り返す2人。

不思議な程タイミングがずれていて。
視線が重なる事がなく。
それでも、どこかマイペースな2人は、焦る素振りもなく。
やるべき作業を進めていた。

むしろ、そんな2人を見て、歯がゆい思いをしているのは。
3人のメンバーだった。


「なんなんだよ‼ さっきのとこさあっ!普通だったらいく場面じゃねーの‼?」

「場所も場所だし、イノランえらいよ。つか、スギゾー、こんなスタジオの中で!ダメでしょ」

「でも結構きわどくなかった?雰囲気、良かったよな」


実は当の2人よりも先に。ずいぶん前から、イノランと隆一の。心の機微と言うものを、何となく感じ取っていた3人は。
いつまで経っても進展しない。
まるで学生の初恋の片想い同士みたいな、見ている方がイライラ・ハラハラ・ドキドキさせられる、この2人に。
密かにヤキモキさせられていた。


「早くしねえと!終幕しちまって、なかなか会えなくなるんだぜ!?
今だよ今‼ 今やんねえで、いつやんの!?」

キーッ‼と言わんばかりのスギゾーを尻目に、真矢とJは溜息をつく。

どこからどう見ても、完全に両想いなはずの2人なのに。どうにも鈍いのか、想い合えるはずなんてない、とでも思っているのか。
とはいえ当人同士の問題だから、周りがあれこれ言える筈も無く。
3人は見守ることしか出来なかった。



全ての作業が終わったのは、日付が変わって少しした頃で。
長い間、ずっと一緒に音作りをしてきてくれたスタッフ達と、ささやかなお疲れ様会をして。

もう後は最後のライブまで、走るだけ。
自分達の情熱、全てを注いで。




皆、帰り仕度を始める中。
イノランはフト、隆一の姿が無い事に気付く。
いつもならスタッフ達と談笑して、その内、その輪にメンバーも巻き込んで、皆で和気藹々とスタジオを後にするのだが。
それが無いから、割と今は静かな室内で。

でも、昨日からずっとハンガーに掛けてある隆一のコートが、いまだ変わらずそこにあるから、建物の中には居るのだろう。

そうこうしている内にスタッフ達は、1人また1人と帰って行き、メンバーも腰を上げ始める。


1人ずっと動かないイノランを見て。スギゾーが隆一のコートをハンガーから引き剥がすと、座っているイノランの膝にポン、とよこした。
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