長いお話《連載》
□4…朝のひかり、君のとなり。
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隆一の手を引いて、片手に隆一のコートを持って。先程まで居たスタジオの壁際の床に、2人、寄り添って座る。
何をするわけでは無いけれど、くっついて、お互いの体温を感じて。
時々、確認するように見つめ合って、キスをする。
それだけなのに、うっとりする程気持ちが良くて、身体がふわふわ浮かぶようで。
それと同時に、この状況が夢のよう。
ついさっきまで、ここでレコーディングをしていた、メンバー同士なのに。
色んな事が起こり過ぎて、頭がついて行かない。
隆一もそうなのか、何だかぼんやりしている。
屋上からずっと、頬がほんのり染まってて、正直かなりかわいい。
でも、今日の今日でいきなり言われるなんて、嫌かな…と思って、イノランはグッと言葉を飲み込む。
すると唐突に、イノランの胸に身体を預けている隆一が、口を開いた。
「イノちゃん…ドキドキしてる」
「そんなの、当たり前でしょ?」
隆ちゃんといるんだから…。と、回した腕に力を込める。
そして一層深く、イノランの胸に顔を埋めて、「俺ね…」と続けた。
「ずーっと、イノちゃんのこと、好きだった。…でも、色んな事考えて、言えなかった。」
「うん…」
「だったらずっと一緒に居られて、一緒に音楽ができればいいって、思ってた。………ちがう。…思おうと、してた。」
「……うん、俺も。」
「え?」
「同じだよ、俺も…。隆ちゃんが好きだって自覚しても、どうしたらいいか、わからなかった。」
「…うん」
「伝えられて、良かった。」
「うん。…イノちゃん?」
「ん?」
「ありがとう。…大好きだよ?」
真っ直ぐに目を見て伝えられる、感謝と愛の言葉。ほわん…と2人の間に温もりが生まれる。
もっと熱を感じたくて、少しの隙間も遠く感じて、再びぎゅうっと抱きしめ合うと、自然と唇も重なった。
…このまま、とけてしまいそうだった。
陽が射して、室内が明るくなる頃。
寄り添って眠ってしまっていた2人は、眩しい光に目を覚ます。
睡眠なんて全然足りてないけれど、不思議とスッキリしていて。
2人顔を見合わせ、どこか照れ臭いような、初々しい気持ちで笑い合う。
そっと触れ合う、優しいキスをして、身体を離す。
「あー。今日撮影だよな。えっと、9時?」
「うん。…ね、俺眠そうな顔してない?ぼんやりしてるかも」
そう言って、首を傾げて顔を向けてくる隆一に。夕べ飲み込んだ思いは何処へやら。
「かわいいよ?」
「……へ?」
思ってもみないイノランの返答に、変な声が出て来た隆一を見て。悶絶しそうな程、愛おしい気持ちでいっぱいになる。
「変なイノちゃん!でもイノちゃんは寝ぼけた顔してないよ、格好良いよ?」
にこっと笑って、顔を覗きこまれて、イノランは得意のポーカーフェイスも保てずに。らしくなく、顔を赤らめてしまう。
まったく隆一と居ると、心臓がいくつあっても足りないんじゃないか。そんな予感がいっぱいだったが。
目の前でにこにこ笑っている隆一を見て、幸せの予感も溢れてきて。
イノランもつられて、笑顔になる。
そして、まだ言っていなかった事を、伝える事にした。
「隆ちゃん。俺の恋人に、なってください。」
一瞬の驚きと、花のような笑顔ののち。隆一の透き通った声が、響いた。
「 はい 。 」