長いお話《連載》

□8…跳んだままで、ずっと。
3ページ/3ページ






スタッフ達を交えての打ち上げは、いつもと少し違った雰囲気はあるものの、おおいに盛り上がった。
メンバー達もそれぞれ、スタッフ達の輪に入って談笑する。

ずっと一緒に走ってきてくれた人達がほとんどで。
寂しい気持ちはあるけれど。
これからはソロとして、また一緒に仕事をする事になる人もたくさんいて。

5人に感謝の想いが込み上げる。
支えられている事に改めて気づいて、一人ひとり言葉を伝えていく。

宴会も半ばを過ぎると、皆アルコールがだいぶ回って、あちこちで笑い声が起こる。
メンバー5人だけのささやかな打ち上げはライブの翌日にしようと、以前から約束していた。それは間もなく海外に飛ぶ、スギゾーとJの見送りも兼ねていた。


隆一はそっと人垣を抜け出すと、冷たい緑茶の入ったグラスを持って一息ついた。
元々あまりアルコールに強い方ではなくて。皆のペースで付き合っていると、疲労感がどうしても出てしまう。

隆一はジッと会場の光景を眺めた。

はじめはたった5人で、何もかもこなしていた。
それが今ではこんなにたくさんの人々が関わってくれている。

ひたすら上だけを見て。
眩しい程の、駆け上がる階段の途中で得た。たくさんの出逢い。良いものも、悪いものも。あったけれど。

これからは上ばかりではなくて、前を向いて、続いていく道を大切に進みたい。出逢えた大切なものと一緒に、感謝を込めて。


ポンっと肩をたたかれて、隆一はハッとする。


「…J?」

「ブレイクタイム?」

「そう、いつものね」

Jはグラスを片手にニヤリと見下ろしてくる。
隆一が見上げると、どこか落ち着かない雰囲気で。目が合うと慌てて逸らされる。

「どうしたの?J」

隆一の問いかけに相変わらずそわそわした様子で。何か言いたいのに、言えないでいる感じだ。
まるで小学生がそのまま大きくなったみたいで、隆一は少し笑った。


「何、笑ってんだよ」

「だって、J 面白いんだもん」

一番大きいくせに、一番末っ子みたい。なんて言ったらますます臍を曲げそうだから、笑みだけ洩らして、言葉は飲み込む。
そんな隆一に観念したのか、ため息と共にJが口を開いた。

「今日お前が言ったこと。さ」

「ん?俺?」

「円陣組んだ時、言ったろ」

「あーー…うん。」

「あれさ。」

「うん」

「ーーーーー救われた…つーか。」

「え?」

「いつかわかんねーけどさ、行き着いた先の、楽しみが出来た。っていうかさ」

「……」

「多分、アイツらも。そう思ったよ」

「………」

「ありがとな。隆一」


そんな事を言われるなんて、思ってもいなくて。隆一は面食らって、たっぷり数秒経って、口を開いた。


「俺もね……」

「ん?」

「はじめは、言っちゃいけないって思ってて。」

「……」

「でも、言う勇気をくれたの、イノちゃんなんだ」

「…アイツ?」

「勇気をもらったら、もうこれは言わなきゃって。そうしないと、悲しいだけの、最後になっちゃうなって。
…それは、望んだ終わりのカタチじゃないもんね」

「お前…」

「どういう言葉で言おうか、ここ数日ずっと考えてたんだけど…結局、」

当日、あの場所で勝手に言葉が出てきたんだ。
そう隆一は恥ずかしそうに言うから、Jもつられて照れ臭くなる。


バンドの存続について考えるときJを悩ませたのは。メンバーの出す音、そして隆一の歌声を失う事だった。
もう二度とコイツらと共に、音楽に身を沈めることは叶わないのかと。
心にポッカリ穴が空いたみたいだった。

認め合っているから。
それは、生涯変わらない想いだろう。


でも、そんな心の空白を。
いとも簡単に隆一は消し去った。
いつか。なんて保証は無いけれど、隆一の言葉だけで、満たされた。

隆一に、心ひそかに感謝した。
そして、キッカケを作ったという幼馴染にも、仕方ねえから、感謝してやるか。と口角をあげた。


「こうなったら頑張らねー訳にはいかねーじゃん?」

「そうだよ?もしかしたら、俺のソロライブにJがゲストって事もあるかもよ?」

「…マジかよ」

「ゼロでは、ないよ?」

「んじゃ、その逆も…」

「然り。」

「ハハッ!!いいじゃん!」

「ね、色んな事できたら…」

「良いねえ!!」


声をあげて、笑う。
2人は緑茶とウォッカで、乾杯した。
次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ