長編さんです

□意外と脆い
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【鈴本side】





鈴本「ねぇ平手」


平手「なーに」



今は夜6時すぎくらい。お互い、部活があったので夜まで部活をして、正門で待ち合わせて肩をならべて足を家の方向にむける。乏しい光を放つ街灯を頼りに手を繋いで帰る。正直、手を繋いで帰るなんて自分のガラじゃないし、顔から火が出そう。一方で平手はいつも通りの余裕の表情で口数が少なくなってしまった私に話掛けていた。


あんまり気を使わせすぎちゃいけないかなと思い、最近ここ2週間ぐらい気にしていることを平手に聞いてみる。



鈴本「…最近ね。理佐が元気ないの。私と愛佳の話は聞いてるし、笑いかけたりもするんだけどどこか虚ろっていうかボケーってしてるの。」


私の急な話題に意外と真剣に耳を傾ける平手。ゴソゴソと繋いでいる手を私より少し大きい手で握り直し、私の方を見る。



平手「そうなんだ。元気がないって理佐はいつもやる気MAXみたいなタイプじゃないと思うけど?」


鈴本「うん。でもそういう感じじゃなくってさー、いつも通りの理佐じゃなくってなんかなんていうんだろ。萎えてる?みたいな」


平手「ぴっぴはなんか言ってる?理佐のことはぴっぴが1番わかると思うよ」


愛佳と理佐は小さい頃からの腐れ縁らしくて最初に言った通り、長年築き上げてきたモノみたいなので繋がってる感じ。ケンカしても絶対頼りにしてるのはお互いだし、なにがあってもいつも2人でいるそんな関係が本当に羨ましい。


鈴本「愛佳もなんでだろーって言ってた。ほらゆいぽんとは毎週会ってるみたいだし、血が足りないわけじゃないと思うんだけどなーって。でも理佐のことだから何を考えてるかわからん!って」


平手「あー…。理佐はねそういう恋心みたいなの結構こじらせてるからね笑。なんかたぶん私たちの中で1番相手のこと考えて生きてると思う。」


鈴本「相手ってゆいぽんのこと?」



うふふってお母さんみたいな微笑みで話す平手。いや、結構私は心配なんだけどなぁ。たしかに理佐はいつも元気!ってわけじゃないけどいつもの元気のなさじゃなくて本当に体から気力がないというかさー。


平手「でもどうしたんだろう。こばと仲良くいってないのかな。」



小林由依ちゃん。それは平手と同じクラスで静かーに本を読んでいるようなタイプの女の子。吹奏楽部でサックスを担当していて部長さんを努めている。なんか男子の憧れの的って感じ。ゆいぽんの近くを通るとすごいいい香りがして女の私でもキュンとしてしまう。私にとってゆいぽんはヴァンパイアを扱うことにおいて先輩にあたる。




平手と指切りしてから3週間。手も繋いだしその…キ、キスもした。それなりにすすんではいるんだけど、理佐とゆいぽんみたいなことがいつかおきるのかなって思うと寂しさを感じる。


だから私は手を繋いでいる平手の手を両手でつかんで、繋ぐ手の指を平手の指の間に入れる。離れないように、離れないように。ぎゅって。


鈴本「……………」


平手「どうした?寒かった?」


鈴本「ううん。別に。」


平手「そっかー。まぁ明日4人で帰るんだしその時に聞いてみよっか」


鈴本「うん」



愛佳も分からないこの問題を私と平手が聞いたところで果たして解けるのだろうか。でも理佐に聞いてみて力になってあげることはできるはず…。








だが私たち2人は知らなかった。明日の帰り道が血に染まってしまうような大惨事になることなんて…。






【平手side】




志田「平手ー正門で待ってるぞー」


平手「ごめんねすぐ行くー」


いつも通り、部活のない今日みたいな日は4人で帰る。私たちにとって帰り道って結構自分の身のうちを語れる大切な場所なんだよね。



私はクラスが違うから帰りの会が終わる時間に少し誤差が出て、やむを得ず3人を正門の前で待たせる。




昨日美愉がいってた理佐の件。私自身意外と気にしてて。まず美愉がいったから気にしてるってのもあんだけど、愛佳が分からないほど理佐がおかしいってなんだ?。あの2人だぞ理佐のことを見抜けない愛佳なんてそれこそおかしい話だ。



平手「…まずいいや急げ」


1人で自問自答して3人を待たせるよりも早く正門へ向かって理佐に聞いた方が早いな。私は急いで自分の荷物をカバンにしまいこんで階段を降りた。




♢ ♢ ♢


冬の夕方って急に冷え込むし急に日が落ちるから嫌いだ。なんか早く家に入れーって言われてるみたいで好かない。



志田「もんちゃんそれ傑作笑」


鈴本「でしょ!笑」



やっぱり4人で帰る家路も悪くない。話は尽きることないし、自分の持ってなかった視点から話が進むから飽きない。ぴっぴがいるとさ○ま御殿出てる感じがするんだよね笑。




志田「あ、てかお二人さんよぉ。どこまでいったんだぁ?手繋いだか?ハグしたか?」


平手「ぴっぴ…デリカシーなさすぎ」


やいのやいのうるさいんだよぴっぴはー。



私はガヤガヤうるさいぴっぴの口を手で塞ぐ。こいつに好き勝手言わせてるとすーぐ茶化してくるから弁解のキリがない。



加えて、うちの少しツンデレな彼女が恥ずかしすぎて話せなくなっちゃうからやめて。そういう顔はいくらぴっぴでも見せたくないの。


志田「なんだよ笑でもその反応はちゅーまでいったやつだな。あ、当たり?」



当たり?とぴっぴが覗き込んだのは美愉の顔。ちゅーという単語に反応して、顔がさっきより赤くなってしまっている。まぁちゅーしたときほどじゃないけどね。


志田「あらあら。お可愛いこと」


平手「ぴっぴ本当にうるさい。理佐もなんかいってやってよー。あ、そいえば理佐、」



私は本当に騒がしいぴっぴに一言言ってもらいたくて理佐の名前を呼んだ。今日は全然会話に入ってこないから、やっぱり昨日美愉が言ってた通りこばとなんかあったのかななーんて。


渡邉「………………」



私が話しかけたのを無視しているのか、無言でうつむいたままの理佐。



無言のままぴっぴの背中に弱々しく張り付いて、足がふらついている。



さすがの理佐の行動に危機感を感じたのか、ぴっぴが慎重な表情で理佐に問いかける。


志田「…りっちゃん?どうした?具合わるかった?」


その問いかけに3拍ほど間を空けて余裕の無さそうな表情で口を開いた。



渡邉「…まって愛佳…や、ば…」




…ん?明らかに様子が変だぞ。理佐の手も足も震えて、肩に掛けていたスクールバッグがストンと落ちる。震える片手で自分の頭の重さをなんとか支えて必死にめまいと戦っているみたいだった。


志田「どうしたりっちゃん。まず座りなさいな、私にもたれてもいいから」


そういって理佐に近づくぴっぴの肩をなぜか必死に押し返す理佐。何回もぴっぴが近づいても来るな来るなと重い頭を左右にふっている。



え…これはもしや…でもありえないだろぉ。


平手「ぴっぴ…もしかして」


志田「…かもね平手(コクッ)」


これは1歩間違えればこの私でさえ怪我しかねない。まず美愉を…



渡邉「きゃ…きゃー!」


志田「理佐っ!」




理佐の悲鳴が道端に響いた時にはもう遅かった。両手で顔を覆い、目から涙を零す理佐。しだいに「うぅ…」とうめぎ声をあげ、背中を丸め込む。



志田「理佐っ!理佐っ!」



ぴっぴはどうにか理佐を落ち着かせようと理佐を抱きしめる。今ここであんなことになっては困る。それは理佐のためにも…。





どれだけぴっぴが抱きしめて背中をさすっても虚しく。理佐の狂気はとまらなかった。



丸め込んだ背中からバサッと翼が生えて…、爪ものびた。だよね、もうこの流れだとあれしかないからね。



渡邉「……(バサッバサッ)」


志田「平手っ!もんちゃん頼んだ!」


平手「うんっ!」


そう、今理佐は自制ができなくなってヴァンパイアになってしまったのだ。ヴァンパイアは血を吸わないとぴっぴみたいに倒れたり、今の理佐みたいに勝手にヴァンパイアの姿になってしまう。さっき泣いてたから理佐自体この体験は初めてなんじゃないかな。



もう理佐に理佐の精神はない。ただ人の血を貪って欲を満たすために暴れるだけ。んで今ここに血を吸える対象がいるとしたら…


平手「美愉っ!」


鈴本「理佐っ!理佐っ!」



この状態でなにやってんの。理佐があの状態で腰が抜けてるくせに必死に友達の理佐の名前を呼ぶ。…腰が抜けてるから下半身に力が入らなそうだ。くそっ…歩けなさそうだなぁ


鈴本「平手…!平手…」



今度は私の名前ですか…。お嬢さんもうちょっと危機感持った方がいいですよ。


平手「…っしょ」


私は恋人を危険にさらすわけにはいかないと唯一人間である美愉をかかえ、ぴっぴを目に捕らえる。



志田「…理佐!理佐!落ち着け理佐!」


平手「ぴっぴそれじゃダメ!もう理佐じゃない!理佐を抱えて帰ろう!」


志田「でも帰ってどうする?コラ理佐!暴れんな!」


理佐を力づくで抱きしめて落ち着かせるかつ、理佐を拘束しようとするぴっぴ。我を忘れた理佐はぴっぴの腕の中で暴れて、目ではしっかりと美愉を捕らえてる。


志田「りっちゃん落ち着いて。コラりっちゃぐっ…」


平手「ぴっぴぃ!」


やばい理佐がぴっぴの腕を長い爪で引っ掻いた。ポタポタッて真っ赤な血が道端に落ちる。「いってぇー…」といいながら腕をおさえることなく理佐を抱きしめるぴっぴ。でもやっぱり腕に力が入らないのか理佐がぴっぴから解放された。



解放された理佐は迷わず美愉のもとに飛びついてくる。赤く染った目がもう理佐じゃないことを語っているようだった。



理佐。さすがに美愉に手を出すのはさけたいからごめんね。こんな手は使いたくないんだけど…




鈴本「平手っ!だめっ。今理佐に乱暴しちゃだめっ!」



よくわかるね。でもね美愉。今はそれしかないからね。


平手「ごめんね美愉。…んっ!っしょっと。ふぅ」


理佐をとめるには仕方がない。乱暴するんじゃなくて能力使うだけだから。君が乱暴にあうまえに…ってだけだよ。



理佐をとめるべく、私はヴァンパイアになった。美愉の血を吸おうと飛びつこうとする理佐の肩を押し返す。



平手「理佐…ごめんね。」


パチンッ



渡邉「……(ドサッ)」



よし


平手「ぴっぴー大丈夫?」


志田「えーいたーい」


平手「大丈夫なのねはいはい」


志田「…世話のかかるりっちゃんだね。まず運ぶか…」







つづく


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