欅坂

□奏
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【渡邉side】







原田「ごめんね、理佐。葵、もう決めたから。」


渡邉「うん、」




ライブが近いからってみんなを惑わせちゃいけないって。ギリギリまで言わないで1人でかかえてライブに臨んで終わったら話がある…かよ。
恋人の私にはなんの相談もないんですか。
…まぁたぶん、私に相談したらせっかく決断したのにその意志がゆらぐとでも思ったから皆に先に公表したのかな。





今でも忘れないよ。そのときの葵のあの目。
いつもより真っ直ぐ。ただ率直に。
私を見つめてた。
でもどこか悲しげで、寂しげで。
放っておけなかった。
でも私もどこか子供で、年上の余裕だけ守ろうとして恋人らしくない冷たい言葉であしらったこといまでも後悔してる。
欲しい言葉をほしいときにくれないなんて、恋人失格だよね。
だってまわりよりその人のことを知ってるから、恋人でしょ?そうでしょ?




葵が復帰して早2ヶ月。
恋人の私たちの関係は昔と変わらない。
と、言いたいところだか長い年月会ってなかったから少し冷めきっている雰囲気で私はむず痒い。




みんなも気づいたかもしれないけれど、学業のために休業していた葵があんなに綺麗になってかえってきた。「葵ちゃん」から「葵さん」になったかんじ。復帰する時、LINEがはいってカフェで久しぶりにあった時は驚いた。どうやら私はその葵の姿をみて初めて形容しがたいものを見た気がしたようだ。



私はもうお互いそれなりに年齢を重ねてきたのだから、恋人らしく、夜を共にしたいとも思っていた。
あいにく、葵が休業中でも他のメンバーに心が傾くことがないほど、私は彼女に酷く溺れているのだから。
私自身、そういう欲求が湧かない歳でもないし。





でも今は冷めきったこの関係。





ただ肩書き上、原田葵は私のもので、渡邉理佐は葵のもの。付き合ってる2人。
だが、私の性格があるが為に、楽屋ではベタベタしないし、あまり自分から話しかけたりしない。
昔は「ねぇ、聞いて」って話しかけられる仲だったのに。




そして、今。



この冷めきった関係に畳み掛けるかのように、私はやらかしてしまった。





それは話の流れで聞いた葵の問いだった。




『理佐はさ、私がいないときさみしかった?』




私はこの言葉を聞いて、YESと叫んでいた。

のは、心の中だけだった。


渡邉「いや、別に。普通」




こんなふつにぶっきらぼうに吐き捨てて、思ってもいない言葉を並べ、下を向いて表情をみせないようにした。



原田「…そっか」


志田「ちょっ、理佐っ!」



こんなことを言った自分が憎い。
せっかく、復帰して前のような関係に、恋人になれるのに。どうしてこうも君を笑わせてあげないのだろう。私の好きの感情はどこへいってしまった?



それを横から聞いていたのか、美波が葵を楽屋の外に連れ出した。


美波は私に横目で「しっかりしぃや」とでもいいたげでどこか怒っているようだった。




志田「…理佐、ばかなの?」


渡邉「…………」


志田「思ってもないこといってさ。葵、心底傷ついたと思う。葵は理佐が1番なのに。理佐の1番は別にいるみたいだよ。…私が恋人ならそんなのやだな。」


愛佳は私を慰めるかのようにでもどこか、怒りながら諭した。



渡邉「…どうしたらいいのかわからない」



ただ、葵との距離の掴み方がわからない私に、愛佳はため息をついた。
いや、そんなにつく?
傷つくよ普通に。





志田「…だっさ」


渡邉「…?」


志田「話したきゃ話せばいいじゃん、くっつきたきゃくっつけばいいじゃん。キスでもハグでもしてこいよ。なんのしがらみがあるの?…もっと葵に甘えなよ理佐」


渡邉「そうだけど…」


志田「理佐が色々考えてるときは葵も考えてるよ、理佐のこと。」






なんで葵にだけそんなウジウジしてんの?笑って笑われた。私ってこんなキャラだったっけ。
くそ、なんだかバカバカしくなってきた。…なんか吹っ切れたかもしんない。




渡邉「愛佳、もし遅れたら呼んで」


志田「はいはい、わかったよ」



ほんとりっちゃんは世話が焼けるねなんて場を和ませて…ほんと気が利く相棒だわ。






♢ ♢ ♢






私は美波にLINEをして、楽屋を出た。2人でベンチにでも座っているのだろうかそれともどこかのルームか。









渡邉「いた…。」





そこには美波は居なくて、葵1人ポツーンと座っていた。



渡邉「葵」


原田「……」




名前を呼んでも答えてはくれなくて、あの昔の分かりやすい怒り顔ではなく、ただ一人の女性としてみとれるほどの表情だった。



原田「理佐にとって私はなんなの?」





下を向いた葵は、自分の声で下を向いたまま口を開けた。
途端にだしたからなのか声が上ずって、ところどころ聞こえずらい。でも私の耳には痛いほど刺さって。
今日は愛佳に言われた通りいい意味で好き勝手にしてやろう。今まで言えなかった甘い言葉をここで吐き出して惑わせちゃえ




渡邉「恋人だよ」


原田「…嘘つき」


渡邉「本当だよ。…別れるつもりなんてないし、私が離さない」


原田「…愛佳に言えって言われたの?」


渡邉「本心だよ。…私恥ずかしくって言えなくて、いつも困らせてごめん。思ってないことも言っちゃうし、冷たくしてごめん。でも私は葵が1番好きだし、休業中も大好きだった。会えなくても会えなくてもずっと。」


原田「私だってそうだよ?理佐は復帰した私をまだ好きでいてくれるかなって思ってた。けど、理佐冷たくって…」




葵の目から大粒の涙が零れた。
さっきより声が震えて、ここまで自分が酷いことしてたんだなって再確認した。
自分が不甲斐ないばかりに




渡邉「っ…!ごめん。ごめんね葵」


原田「ふふっ理佐あったかい」




私はそっとぎゅっと彼女を抱きしめた。こんなこといつぶりだかわからない。彼女の温もりに安心させられる。





あったかいねーなんて…。
さっきまで泣いてたくせに。
愛佳に言われた通り私って葵に甘いんだなー。




原田「今日おうちくる?」


渡邉「…絶対行く」


原田「綺麗にして待ってるね!笑」




葵。ほんとにごめん。いままで冷たくって。
葵と話すとドキドキするし、少しの行動にもキュンッてしちゃうから。
不器用な私の最大限の照れ隠しだったのかな。








志田「…これ、どうやって声かけろってのよ」


守屋「こりゃ無理そうだね笑」








end


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