貴方とやり直す

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駆けていったコナン達は自分達が付いてきていないことに気づいたのだろう、自分とレギュラスの姿を見て、此処にいたのか、と安堵と呆れが混じったような声色で言われて小さく笑みを浮かべておいた。
勝手に駆け出したのはコナンだし、レギュラスが立ち止まったままなら自分はレギュラスの傍にいるだけだ。
少年探偵団達が自分達の元に集い、新たな情報を教えてくれた。
保健室に行くと光彦が見たらしい人体モデルはさっき見た位置のままだったが、足元に歩美が落としてしまったハンカチが挟まれるように落ちていたとの事。
ハンカチなど自分達が見た時はなかった事を考えると誰かが歩美のハンカチを拾って人体モデルの傍に置いたことになる。
更にその後すぐに人の気配を感じた場所に行けば人が居たという形跡が残っていたという。
人の仕業という事でこの学校に居る警備員に来てもらおうと一同は職員室に来ており、電話をかけることにした。


電話をかけるのはコナンに任せ、職員室を見渡す。
ふと、自分の担任である小林の机に気がついて机に並べてある書類を見つつコナンの方を見る。
ずっと受話器を耳に付けたままのコナンに元太が痺れを切らしたようだ。

「で、出ないのか?」
「何かあったんでしょうか?」

中々電話に出ない様子に光彦と歩美が不安そうにコナンを見つめると、いや…と小さく首を横に振った彼はどこか呆れたように受話器を見る。

「どーせまた酒飲んで寝ちまってんだよ…昔からいーかげんなんだよなー、あの警備のおっさん…」
「昔からって?」

まるで知っているかのような物言いに皆してコナンを見る。
歩美の言葉に一瞬固まったコナンは乾いた笑みを浮かべて受話器を元に戻す。

「あ、いや…蘭ねーちゃんがそう言ってたんだよ!」

蘭から聞いていたと言っても物言いが少し違和感に感じたが…。
色んな話を蘭としているのだろうと特に気にせずに、警備員は諦めて探偵であり蘭の父に電話をかけることにしたコナンから隣で同じ様に小林の机を観察していたレギュラスに視線を向ける。

「人形劇をするわけじゃなさそうだね?」

自分達の名前が書かれた人形からして担任の机に人形に関する書類でもあるかと思ったがそれらしきものは見当たらない。
一つ頷き、レギュラスは少し違和感にも思えるそこを指差した。

「本来ある筈の物が無いのも変ですね」

他の先生の机にはある筈の物が小林の机には無く、書類立てには抜かれたように一つだけ隙間が空いている。机周りが綺麗なだけにその隙間は違和感に感じた。

「ま、待てよコナン…」

バタバタと走り去っていく音と元太の声に気がついて、あ、と思った時にはまたしても勝手に少年探偵団達は走り去っていた。
多分電話をし終えたとは思うが…

「また勝手に行っちゃった…」

随分と勝手に行動するものだ、と苦笑を浮かべると呆れたように出口の方を見たレギュラスは小さく息を吐く。

「…放っておきましょう。それよりも僕達はあの場所に行ってみましょう」

手を繋いできた彼に頷いて少年探偵団を追うことなく、別の方に足を向けた。


――…


こっそりと足音を立てないように、存在を消すかのようにしてやった来た扉を見つめる。
扉の上に立てかけられた札を見れば1−Bと自分達の教室で。
窓越しに中の様子を伺うように見れば歩美が言っていた通りマスクをした人物と無数の人影があった。
ジッと目を凝らせばマスクをしている人物が暗い中でも誰だか判別出来て、レギュラスを見れば小さく頷いて扉に手をかける。
なるべく小さな音で扉を開けたつもりだが、静かな教室にその音が響いて。
中に居たマスクの人物は大きく肩を震わせて驚愕したように自分とレギュラスを見た。

「こんばんは…――コバヤシ先生?」
「あ、あなた達ッ…!」

大きく目を見開きマスク姿の自身達の担任の先生である小林にレギュラスは、しっと声を落とすように指を口に当てれば気まずそうに口元を抑えて視線を落とす。
教室に入り静かに扉を閉めて、落ち着かない様子の小林にそっと微笑みかけて小首を傾げる。

「先生がした行動のせいで噂が立ってしまったんですね?」
「そしてあの場に段ボールを放り出したままなのも、こうして僕らを見立てる為の準備だったということですね」

それぞれの机の上には人形があり、名前を見ればいつも座っている席にそれぞれの名前が貼られた人形が置かれている。
そして教室の後ろには無数の人影だと思われた人体モデルに石膏像が数個並べられており、よく見れば父兄と書かれた紙が貼られてある。

「綴込表紙が貴女の机にだけ置かれてませんでしたし、この教室の状況と手に持つ指示棒を見た所、父兄参観日の練習と言った所でしょうか?」

偶然持ち帰ったという可能性もありましたが、来てみれば案の定貴女が此処に居た、そう告げてレギュラスは自分の席の側に行って見定めるように小林を見れば心底驚いたように目を丸くさせ、困ったように笑みを浮かべた。

「そうだけど…、それよりこんな時間に学校に来ちゃ駄目でしょう?」
「…来たくて来たわけじゃありません。不可抗力です」

レギュラスの言葉の意味がよくわからないのだろう、へ?と呆ける小林は思い出したように、暗いよね、と電気を点けようと手を伸ばす。
待ってください、と行動に気づき直ぐに止めた彼の言葉に手を止めてこちらを驚いたように見る彼女にレギュラスは口角を上げる。

「電気は点けなくていいですよ。すぐにバレては面白くないでしょう?」
「面白く…?」
「先生は気にしないでください」

困惑気味に眉を潜める小林にあはは、と空笑いを漏らして彼女に近づく。
困ったように見つめる小林を安心させるように微笑んで、手を引いて教壇の前に立たせる。

「最近は特に感情の突起が激しく見えたから何かに悩んでいるだろうって思っていたんだけど参観日のせいだったんですね」
「ッ…!」
「コジマをよく伺っている様子でしたし…彼の人形だけボロボロなのにも訳があるんでしょう?」

先に席に座っているレギュラスに習って、自分もいつもの席に座り小林を見つめる。
自分の心境に気づかれていたことに驚いているのか、少し戸惑うように目線を泳がせた彼女はそっと元太の席に置かれているボロボロの人形を見て寂しそうに眉を下げた。

「わかっていたのね…。…それには訳があって…」
「良かったら話してくれませんか?」

私達が聞いてもいいなら、そう付け足して微笑む。レギュラスも見守るように小林を見ていて、少し息を飲んで目を見張る彼女は目を伏せてから小さく息を吐いて、自分達を見つめる。
そしてゆっくりと話しだした。

「前の学校の話しなんだけどね…――」

前回の学校では今とは違い怒ることなく、それこそ生徒に優しいと慕われる先生だった。
可愛い生徒に怒る気がなくて、初めの参観日に小林は緊張のせいであがってしまい、小林を茶化した男の子とそれを止めさせようとした男の子が大喧嘩に発展してしまい大怪我を負ってしまった。
だから今回、二度とそんな事が起こらないように、繰り返さないように心を鬼にして生徒にも自身にも厳しくしていた。

そう静かに語った小林は少し寂しそうで、自分とレギュラスを見て困ったように笑う。

「でも父兄参観日が近づく度にその事が頭を過ぎって、居ても立っても居られなくて毎晩こっそりこんな練習をしていたってわけ…。小島君のだけボロボロなのはその時に喧嘩を仕掛けた子に似ていたから心配で…」
「だからって別にボロボロじゃなくてもいいでしょう…」

バッサリ言い放つレギュラスに呆気に取られた小林はその通りと言わんばかりに頭を野垂れる。
落ち込んでいる彼女の様子に少し考えて、ふ、と笑みを漏らす。
先生、と優しく問いかければゆっくりと頭を上げて不思議そうな表情で自分を見る。

「コバヤシ先生はいい先生ですよ」
「え……」
「だって、生徒の事をよく見ているじゃないですか」

自分の席に置かれているグレーテルの人形を手に微笑む。

「この人形達を見ればわかりますよ。それぞれその子にあった人形を選んでる。生徒のこと考えてないとそんな事絶対にしませんよ」
「…無理して取り繕らなくてもいいんじゃないですか?根が優しい貴女がずっとそんな態度を続けているといつか押し潰されますよ」
「そうだよ。まず先生が治すべきはその上がり症でしょ?」

呆気に取れらたように口を小さく開けて見つめる小林は、少し恥ずかしそうに視線を外して、はいと小さく頷いた。

「…貴方達も少年探偵団だったの?」
「はい?」

まるで探偵さんみたい、と期待に満ちたような眼差しで見てくる小林にこちらが呆気に取られる番だった。
まさかの発言に露骨に嫌そうに顔を顰めたレギュラスはすぐに表情を消して、少年探偵団達の人形達を見る。

「馬鹿なこと言わないでください。僕達は探偵なんていう正義感で人助けなんてことやりませんよ」
「今日は偶然一緒に居ただけですし…」
「…え?貴方達以外にあの子達も居るの?」

勿体ない…とボソリと彼女の呟いた言葉は無視するとして、あれ?と思わず首を傾げたくなるのはこちらもで。
確かコナンが人影を見たはずなのに、と考えていると小林が思い出したように、円谷君の声が聞こえてたわねと呟く。

「もう…こんな時間まで遊ぶだなんて…」

心配故に顔を顰める彼女にどうしたものか、とレギュラスを伺えばニッコリと企んだように笑みを浮かべて口を開く。

「この際です。練習にお付き合いしてあげますよ」
「で、でも、もう暗いし早く帰った方が…」
「良いんですよ。どうせ少年探偵団が此処に来るでしょうし」
「そうだね。作り物よりもこうして人が実際に居る方がいい練習になるかもね」

時間潰しには丁度いいだろう。
本当に良いの?と不安そうな表情を浮かべる小林にしっかりと頷くと安心したように笑みを浮かべた。
何よりこうして先に僕らが居れば彼らも驚くでしょうしね…、とニヒルに口角を上げるレギュラスの表情に小林は不思議そうに目を瞬かせていて、今回の件をまだ根に持っているらしい様子に苦笑を浮かべる。

「…いつも大人しい子達だと思っていたけど…。あなた達と話していると余計変な感じがする…」

困惑気味に告げる小林に思わずレギュラスと顔を見合わせて、二人して小さく笑う。
その真実は一生気づくことなく、迷宮入りで終わることだろう。
さあ、見てますから頑張ってください、とレギュラスの言葉に小林は変に気合を入れて。
少年探偵団が此処に来るまで小林の練習付き合うことにした。



――…

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