貴方とやり直す

□19
1ページ/2ページ




城の中を使用人達も含めて探し回ったがコナンを見つけることは出来なかった、外も見回ろうと玄関から出ていく少年探偵団と阿笠、田畑の後ろを付く様に玄関を出ようとした所で手を引くレギュラスに進行方向とは逆の方に手を引かれて。
外に出ることなく、皆とは反対の城の中の影に自分をも連れ込んで身を潜めた。

「どうし――」
「――し…」

思わず呼びかけようとした口を片手で塞がれて、人差し指で唇を押さえたレギュラスは身を隠した状態から辺りを見渡す。
辺りには今誰も居ないが、目を丸くして見つめる自分の耳に顔を近づけて小さい声で話す。

「今の隙にチェスを見下ろした部屋に行きましょう」
「で、でも皆と行動する方が…」

コナンの姿が見えない今、どうして彼の姿が見えないのかわからないが満の話を聞いていれば良くない方に考えてしまう。
自分達が勝手に行動するよりも保護者である阿笠に付いていた方がいいんじゃないか、と困惑して伝えたが首を横に振って、肩に手を置かれる。

「無闇に探し回るより目星の付いた場所を探すのが賢明でしょう?」

確かに少し抜けている阿笠に頼るよりも自分達で考え行動する方が有意かも知れない。
そう過ぎった思考に肯定するように頷くと、レギュラスは城を見渡して、この城は隠し通路がありますし、と言葉を漏らす。隠し通路で思い出すのは夕食の際にレギュラスがした質問の事だ。

「…あの人ああ答えてたけど、何処にあるのか知らなさそうだったね」
「ええ、知っていれば断言出来ますし、都合が悪ければ無いと言い張るでしょう」

この城で隠し通路や隠し部屋がないと言われれば怪しく思う。
満の返答と表情、貴人の表情を見て彼らはその存在をあることを知っているが、実際の場所を知らない様子だった。

まあ推測ですが、と付け足すレギュラスに手を引かれて誰にも見つからないように一つの部屋を目指す。
大方城の中を探したのか、誰ともすれ違うことなくやってきた扉のノブにレギュラスが触れる。
鍵は掛かっておらず、あっさりと開いた扉に中に入って静かに扉を締めた。
やってきた部屋は自分達が見下ろしていた部屋ではなく、光彦と元太がチェス盤を窓から見下ろしていた隣の部屋だ。

「この部屋から彼が消えたんだよね…」
「多分僕の予想通りなら…」

部屋は薄暗いがなんとか辺りを見渡すことは出来て、今は閉まっている蓋付きの壁時計の下に立ったレギュラスは誰も見ていないことを良いことに浮遊を使って蓋を開け、そのまま浮遊を使い時計の針を動かす。
時間が狂い、動いていなかった針を何周かぐるぐる回していると、カチッと何かが嵌るような音と共に急に壁時計の下の壁がどんでん返しのように動いた。
勢いよく回ってきたどんでん返しに吃驚して声を上げてしまう。
そのまま勢いよく反対側に行っちゃうんじゃ…、と肝が冷えて、咄嗟に彼に手を伸ばす。

「レギュラスッ…!」
「――ッ!?」

手が届く前にレギュラスは驚愕した様子で回ってきた壁を手で受け止めて、回る壁に巻き込まれることはなかった。
無事の様子に伸ばした手を下ろして、安堵の息をついて彼の傍に寄る。

「吃驚した…、レギュラス大丈夫?」
「大丈夫ですよ。この壁時計は作動する為のものですね」

壁の中は通路の様になっているようだが先は真っ暗だ。まさに隠し通路だと思われるそこを見つめて考え込んでいる様子のレギュラスは掴んでいた壁を離すと、どんでん返しの様になっていた壁は元の状態に戻った。

「中を見ないの…?」

中に入ることなく元の状態に戻した彼に思わず問いかければ、しっかりと頷いて窓際に寄っていく。

「もし彼がこの隠し通路に気づき、この仕組みを知る者に襲われて戻ってこれない状態だとしましょう。それが事実ならその襲った人物はこの城を熟知しているんじゃないでしょうか」

迂闊に隠し通話を探索するのは今は避けた方が良い、とそう言って窓を開けて下を見るレギュラスは暗号であるチェス盤を見、フ、と小さく笑う。

「この隠し通路から宝の場所にいけるとすれば既にその人に宝を見つけられていると思います。彼が襲われ帰ってこないとなればまだ宝は見つかっておらず、今も尚探していることでしょう」
「その可能性もあるけど……。その暗号を解けなくて隠し通路の未だに見つかっていない隠し場所にあるってことも…。この規模の城なら隠し通路が一つとは限らないよ?」
「それも一理あります」

隠し通路が何処に繋がり、構造がどうなっているのかわからない。
隠し通路があった場所に視線を一度やってからレギュラスを見れば、懐を漁り小さな袋を取り出していた。
祖母から貰った探知不可能拡大呪文が掛かったその小さな袋に手を入れて、黒いローブを二着出しその一つを自分に渡す。
小さい袋を貰ったその日に色んな物を詰め込んでいたのは知っているが、思わず首を傾げる。

「なんでこれを…?」
「雨が降っているのと、姿を見えにくくさせるためですよ」

先に黒いローブを着たレギュラスはもう一度小さな袋に手を突っ込みよく見慣れた物を取り出した。
思わず引き攣りそうになる口角をなんとか我慢して、笑顔を浮かべている彼に恐る恐る問いかける。

「ど、どうして…箒なんて出してるのかな…?」
「掃除なんてしませんよ。それ以外となれば使い道など一つしかないでしょう?早くローブを着てください。人が来たらどうするんですか」

窓の外を見つつ急かしてくるレギュラスに慌ててローブを羽織って、近くに来た彼にフードを深く被せられる。

「と、飛ぶの!?人に見られたらどうするの!?」
「声を落としてください。だからローブを着てるんじゃないですか。それにこの城に居座るよりも外の方が色々と安全です」

同じようにフードを深く被ったレギュラスは箒に跨ると有無を言わせない内に自分の手を引いて、前に座らせる様に身体を支える。
仕方なく横乗りで箒に座り、彼の首に手を回してしがみつく。勿論顔など上げれるわけもなくレギュラスの肩口に顔を埋めて。

「……箒に乗る時はいつも熱烈に抱きついてくれますね」
「…や、やっぱり無理…怖い……絶対離さないでね…?」
「心配しなくとも離しませんよ」

普段からこれぐらい積極的でも歓迎ですよ、と肩を揺らして笑うのが振動でわかって、急激に顔が熱くなる。
誂っているのだとわかっているのだがそれに返す余裕は全く無くて、更に力を込めて縋り付くと腰を支えてくれる手に力を込めてから、行きますよと合図と共に地に付いていた足が離れる。
開けたままの窓から脱出したのが頬に感じる風からわかる。
風だけではなく冷たい雫が時たま頬に当たって、あまり濡れないように気遣ってかゆっくりした速度で移動してくれていた彼は、もう顔を上げて大丈夫ですよと優しく声をかけてきた。
恐る恐る押し付けていた顔を離して、微笑む彼の顔を見てから景色を見てみる。

「…此処って…」
「大火事があったと言われていた塔の中ですよ」

目の前には自分達が居た城が下の方に見えていて、上を見れば吹き抜けの様に空が見えて唯一残っている屋根に今いる場所が上部が焼けて崩れていた塔に居ることがわかる。
怖くて見てなかったが、多分崩れて開いた場所から入ったのだろうレギュラスは焼けて脆くなっている場所を避けるようにして床に降り立ち、自分も地に足を付ける。

「ここなら入り口を封鎖していると言っていたので誰かが来ることはないでしょうし、もし隠し通路が繋がっていても脆くなってますので足音でわかります」

この場所は下から上がって来ないと来られませんし、と窓があった場所から見える城の様子を伺いながらフードを脱いだ彼に習ってフード脱いで中を見渡す。
燃えた跡が明々白々と残るこの部屋は多分奥様の寝室だったのだろう。
唯一の出入り口だろう黒くなった扉を見て外を見るレギュラスに近寄り同じ様に城の様子を伺う。

「でもなんで此処に?この塔はあの暗号とは関係ないでしょ?」
「ええ、関係ないからこそ此処で身を隠すんですよ。あの城じゃ何処に隠し通路が繋がっているのかわかりませんからね」

身を隠す?と思わず呟くと城から自分を見たレギュラスは少し険しい顔をしていて。
箒を小さな袋に戻すことなくずっと持って警戒している様子に目を瞬かせて小首を傾げる。

「何かわかったの…?」
「……あの部屋を急いで出て正解でしたよ」

小さく息をつく彼の言った言葉に目を丸くする。
誰かに見つかりそうだったのか、とジッとレギュラスを見つめると睨むように城を見てからしっかりと言葉を紡いだ。

「リュナは僕にしがみついていて見てませんでしたが、僕達があの部屋を出て直ぐに来たんですよ――足を痛めて車椅子に乗っていたはずのあの老婆が、車椅子に乗らずに形相を変えてあの部屋に駆け込んできたのをね…」
「…うそ…足を痛めているのは嘘だったの…?それに直ぐに来たって…」

自分達の姿を見られたんじゃ…、思わず口を手で覆うとレギュラスは口角を上げて大丈夫ですよと笑みを浮かべる。

「あの老婆が本当に老婆なのか疑わしいですが、僕達に気づいた様子は全くありませんでしたよ。開けたままの窓は不審に思ったみたいですが、空を飛ぶと言う発想はマグルは持ってませんからね」
「それなら良かった…」

自分達の姿を見られてないならひとまず安心だ。
胸を撫で下ろし、思考を巡らせる。レギュラスの言う老婆はマス代の事だ。

「どうしてあのお婆さんがあの部屋に駆けつけてきたのだろう?後ろを付けられてた訳じゃないでしょ…?」
「ええ。確認してたのでそれはないです。……あの隠し通路が開くと同時に何かしらの仕組みで知らせる様になっていた、としか考えられませんよ…」

的確にあの部屋に駆けつけてきたように思えますから、と考える様に告げた言葉に驚愕して思わず声を漏らしてしまう。
それが本当なら…。

「彼…エドガワ君が戻ってこないのはあのお婆さんの仕業…?」

しっかりと頷いて、一番怪しいのはあの老婆だとレギュラスはハッキリと告げる。
マス代が事件に関与あるかどうかは今は置いて、まず心配なのはコナンの安否だ。

「エドガワ君大丈夫なのかな…」
「……大丈夫じゃないですか?好奇心旺盛なのが彼の持ち前ですしアガサも居ますしね」

何故呆れた表情を浮かべるのかわからないが、レギュラスがそういうのであれば大丈夫なのだろう。少し心配ではあるがレギュラスの言葉を信じて身を隠すことにする。
僕らは安全である此処で様子を見ていましょう、と浮かした箒に座って外の様子を伺う彼の隣に座って同じ様に外を眺める。
暗く雨が降っているせいで遠くは見えないが、微かに庭に置いている大きなチェスは見えた。

「あのチェスの暗号は解けた?」
「答え合わせでもしましょうか?」

素直に教えてくれない様子の彼に少し頬を膨らませてジト目で顔を見れば、悪戯っ子のように目を細めて自分を見る。
どうやらレギュラスはもう解けてるようで笑みを浮かべたまま自分が話し出すのを待っている様子に、間違ってるかも知れないけどと前置きしてから話す。

「まず白の駒ね。マスを座標式で見た時白い駒だけを1から順番に見ると“EGG・HEAD(エッグヘッド)”と読める。これは理屈っぽいインテリと呼ばれていた大旦那と呼ばれていたあの肖像画の人の事を指していると思うの」

覚えやすいように何気なく順に読んでみると単語になっていた。
エッグヘッドはインテリを軽蔑する言葉なのだが、大旦那はそれを嬉しそうに受け止めていたと言っていたし。
頷いてくれたレギュラスの様子に合っているようだと安堵の息をついて、小首を傾げる。

「だからその人に関連する場所にその宝があると思うんだけど…」

大旦那と呼ばれたその人の自室がまだ残っているのならそこにあるか、あの肖像画の事を指しているのか。

「でも黒い駒を意味するのがよくわからなくて…。失踪し餓死した人は多分“G”と読み、この緑に囲まれた塔の中に宝があると思ったんだろうね」

未だに探しているという事は違うってことだよね、と確かめるように聞けばレギュラスは頷いて、僕が思うに…と考察を話してくれた。

「あの黒の駒が矢印を表しているのならば、何かを回す。あの城の仕掛けは回して隠し通路を表しているので、その人の何かを回す…。僕達が知る限りでは――…肖像画を左に回す、が有力ですかね」

まあ、実際にやってみないと答えはわかりませんが、と困ったように笑うレギュラスに同意するように頷いて、思わず苦笑が浮かぶ。
今隠れている状態なのに、玄関にある肖像画を回すなんて派手な事はできそうにない。

「肖像画の後ろに隠し通路があってもおかしくないですしね」
「お城ならあって当然みたいな感じだものね?」

小さく笑うとレギュラスに頭を優しく撫でられて、優しく微笑んだ彼は手を前に伸ばす。
伸ばした先にあるのは大きなチェスだ。

「僕らならあの大きなチェスを動かして遊べるのに…」
「動かしちゃダメだよ。それに駒が足りないでしょ?」
「…スリリングがあっていいと思いますよ?」
「一瞬で終わっちゃうよ」

和やかな雰囲気はあの城から切り離された空間のようで。
今なら空を自由に飛べそうです、と暗闇を利用して暇つぶしに箒で飛び出そうとしたレギュラスを雨だからダメとしがみついて止めて、探知不可能拡大呪文のかけた小さな袋から簡易なライトと本を出して読書をして時間潰しをすることにした。


――…

次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ