長編

□君が微笑むだけで[3]
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初めは、風邪、だった。
GWに入った途端、熱や咳が出始めたので、せっかくの休みなのに勿体ないなぁと思いながら寝込んでいた。
とはいえインフルエンザみたいな辛さではなかったから、家にある常備薬を飲んで大人しくしていることにした。

しかし、それは突然やってきた。
ふと、ベッドから起き上がろうとした瞬間、
「─────!?」
背中に激痛が走る。
経験したことの無いような痛みであったが、背中が裂けるような痛みだ。
「──っずぁ...ぐ......」
耐えきれず、呻き声が出る。
まずい、と直感的に思った。
死が目の前に迫った様な気がして、吐きそうになる。治まらない痛みは、地獄であった。
「───ぎ、ぁあ、あ、あ」
しばらくの痛みの後、唐突に、みし、と身体が音を立てた気がした。
裂けるような、では無く、本当に裂けてしまった、ような、感覚。
その感覚のあと、ぴたりと痛みは治まった。
いや、治まったと言うよりは、背中が麻痺してしまったような、気がした。
「──?、っはぁ、はぁ、ぁ」
息を落ち着かせて、状況を整理しようとする。
背中に何か異変が起きている。
とにかくそれを、確認しなくては、とふらふらの身体を引き摺って、全身鏡のある洗面台へ行く。
そして、服を脱ぎ、背中を見る。
「────!?」
私の背中には、痛みの通り、裂けたような傷があり、血が滲んでいた。そして、そこから、
そう、小さな翼が生えている。

理解できなかった。
理解しようとするだけ無駄なように思う。
お伽噺にでも出てきそうな、
そう、天使が背中に背負ってそうな、翼が、羽根が生えている。
夢か、とも思ったが、滲む血が現実へ引き戻す。
とにかく、病院に、行こう、と思った。
私1人では手に負えない。
私は近くで1番大きい総合病院へ向かった。




「これ、は─────」
私の背中を診るなり、医者は絶句した。
そこから、医者は医者を呼び、代わる代わるに私を診て、騒がしくなっていく。
とりあえず止血して手当をしてもらう。
そして、1番偉そうな、院長らしき人が出てきて、口を開いた。
「金村さん、動揺しないで聞いて欲しいのですが、」
「──はい、」
「率直に言うと、貴方は、天使病、です」
「───天使病、?」
聞いたことがなかった。
天使の翼のようだ、とは思ったが本当にそういう名前の病気があるらしい。
「天使病は、原因不明の病気です。どのタイミングでなるのか、遺伝的な、先天的なものなのか、後天的なものなのか、わかっていないし、何より症例は少ない、」
「、なる、ほど」
「わかっているのは皆同じ症状が出るということだけです。」
「それは、?」
「まずは、かなり激痛を伴う。その翼は、金村さんと痛覚こそ共有していますが、その翼自体が意志を持っている。
その翼は成長して行くんです、金村さんを宿主にして。その時に、かなりの痛みが伴う。」
「────」
「そして、さっきも言ったように、翼は金村さん宿主にする。翼は、どんどん金村さんを侵食していく。味覚や視覚など五感、さらに痛覚までも失われ、内臓もかなりダメージを受け、最後は──、」
「────最後は、?」
「最後は、翼が身体を貫いて乗っ取り、異形=A平たく言えば、人間では無い何か、になってしまいます。が、大抵の人はその時点で、身体が耐えきれず、亡くなってしまいます。今までの症例を見ても、長く持って1年でしょう───」
「な、」
「今は医学的な治療法も、見つかってはいません。」
「─────」
それは、死刑宣告、であった。
「そこで金村さん、入院、しませんか?
なんせ症例は、少ない。私たちが金村さんを逐一チェックすることで何か見えてくるかもしれない。あなたの自由は無くなるが、何もせずに亡くなるよりは良いのでは、と思います。他の天使病の方の為にも協力してくれませんか?」
「─────、それは、嫌、です」
真っ白な頭ではあったが、医者が言っていることは、モルモットになれ、と言っているように感じてしまった。
「──そうですか」
「まぁ、今はまだ金村さんは症状が軽い。ですが、これ以上成長すれば、命に関わります。その時はどちらにせよ強制入院になるでしょう。
それまでに気が変わったら、いつでも言ってください」
「、はい」
とにかく今は独りになりたかった。
落ち着く時間が必要だった。
もうここには用は無い、と席を立って診察室を後にしようとする。

「あぁ、それと、」
「、?」
「医学的な根拠がないので、治療法、と言うべきかはわかりませんが、実は翼が、抜け落ちて完治した例はあります。」
「、え?」
「それは──────」
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