長編

□君が微笑むだけで[4]
1ページ/1ページ

と、そこまで言ったところで彼女はどもってしまった。
「その方法は、?」
「──今は、ちょっと、言えない、言いたくない」
「どうして、」
「ごめん、これだけは、」
彼女からの再びの拒絶であった。
「───────」
彼女の話はこれで終わりだった。
「ほんとに、治療法は無いの?」
「うん」
「今も、痛い?」
「いや、痛みは発作みたいにときどき来るだけかな、でも確実に最初よりは成長している気がする」
「───そっ、か」
目の前にいる彼女が、死ぬ、ということはあまりにも現実味がなかった。酷い冗談だと、嘘だと言って欲しかったが、彼女の目は真剣だった。

「そう言えば、親とかは?」
「あぁ、実は、私、親もう亡くなっててさ、おじさんが一応保護者だけど、転勤族だから、この家には私だけ」
「、なんか、ごめん、」
「いや慣れてるから大丈夫」
そう言って、申し訳なさそうに微笑んだ。
その顔が、目が、あまりにも悲しくて直視できなかった。
「───あ、」
涙がぼろぼろと出てきてしまった。
どうして、この子がこんな目に遭わなくては行けないのか。
私がバレー部を辞めた時、庇ってくれるような、優しい人がどうしてこんな────。
「、だから、言いたくなかったのに」
顔を上げると、彼女も悲しそうしていた。
「私は、もう自分の中で折り合いをつけてるよ。
別に大した後悔もないし。いつか消えるというなら、それが今だと言うなら、私はその運命の流れに身を任せる。」
「でも、誰にもそんな顔して悲しんで欲しくない。そんな顔されて、それが心残りにでもなったら困るよ」
「─────」
そういう彼女の手は震えていた。
口から出る言葉は全てを受け入れているのに、目の奥は拒絶していた。生きたい、と。助けて欲しい、と、言いたげな目。
彼女は嘘をつくのが苦手なようだ。
「だから、誰にもこのことは言わないで欲しいな。」
「───金村さんは、ここでずっと最後まで、独りでいるつもりなの?」
「そう、そうだよ。私は誰にも迷惑掛けたくないんだよ。今は痛みだけだけど、そのうち手に負えないような化け物になってしまうかもしれない。そうなって、誰かを傷付けるのは嫌だよ。
このまま誰からも忘れられてしまえば、誰も困らない。
だから、小坂さんもこれでこのことは忘れて、ほっといてくれて構わない、いやむしろそうして欲しい。」
さ、話も終わったし、と金村さんに帰るよう促される。
とりあえず放心状態のまま鞄を手に取り、玄関まで見送られる。
靴を履き、玄関のドアノブに手を掛けたところで、
「────じゃあね、小坂さん。あなたみたいな人に出会えてよかった。」
なんて震えた声で言われた。
「────」
扉を開ける。そして振り返る。
振り返った先には目を赤くした金村さんがいる。
「───私、明日も来るから。」
「──え?」
「私は、絶対に金村さんを、見捨てない、忘れない。だから、明日も来る。」
そう言って驚きで硬直してしまった金村さんを取り残し、玄関を飛び出して、金村さんがいなくならないようにと、蓋をするように扉を閉めた。

どうしてあんなことを言ったのか、自分でもよく分からない。気がついたら口から滑り落ちていた。
だが、それは嘘でもなんでもなく、私の本心から滑り落ちたものだと思った。
でもその本心は自分でも分からない。

ふと、遠くを見ると、実に綺麗な夕日であった。なんだか悔しくなるぐらいに。
その夕日を私は、以前にも見たことがある。
金村さんと私が交わるずっと前、中学生だった時に見た、あの日≠フ美しい夕日を私は思い出した。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ