BOOK

□Fragrant flower
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「…ね、アレ見た?」


ヒロたちの自宅を出てスグ、前を見たまま
言う莉子。隣のタケシは掛けて出ていた
店の鍵を慣れた手つきで開けながらその
コソコソ話をするトーンに苦笑しながら
答える。


「ヒロのデレか? 今散々当てられて
出たとこだろ。見るも何も…」

「いやいや、ヒロの腕がガッチリ
花純ちゃんロックしてたの、見た?」


信じられないもん見た、みたいな顔する
莉子に思わずちょっと吹き出してしまった。
ついさっきまで一緒だった親友のザマを
思い出すと、確かにむず痒さが改めて
タケシを襲った。…しかも、さっきは一応
気付かぬフリはしてやったものの気付いて
しまった事をついついポツリ。


「あー…、つーか俺としてはかすちゃんの
二の腕とかに付いてた真っ赤なキスマーク
やら歯形にビビった。ギリ袖で隠れてる
ようでチラ見えした時思わず目ぇ逸らし
ちまったもん…。」

「いや、それはまぁ発情(ラット)中はあんなもん
でしょ、誘発されたαは殆ど理性なんて
働かない状態なんだしさ、逆にまぁヒロは
頑張った方なんじゃない? …耐えてた
年数を思えば、特に?…って私が言いたい
のはさっきのヒロよ! ねぇ何アレ?!
デレッデレにデレてあんな甘いヒロ、
見た事ある?? アンタも言ってたけど、
ヒロって…あんな(キャラ)だったっけ?」

「友人の顔しか知らねぇから知らん。
…けど、かすちゃんにだからあんなん
なっちゃったんじゃねぇの? ほら、例の
魂の番とかっつー奴だからだろ?…俺ら
βにゃ理解出来ねぇ感覚だけどなー。」

「…あー…まぁね。清花とは義務的な番
だった訳し…、まぁ、そっか…。いやー
でも素面でアレは正直キツいわぁー…
ヒロはスカしながら横目で花純ちゃん見て
デレてるくらいが丁度いいのにっ」

「そりゃ変態(アウト)だろ。周りから思わず
『かすちゃん後ろ後ろ!』って注意喚起
されちまうじゃん。」

「随分懐かしいギャグネタ言ってんじゃ
ないわよ。あー……でもさぁー……」

「え、何お前もしかしてヒロの事…?」

「…は…? え、ヤメてよ、無いナイ!
無いから! ヒロの一途さは認めるけど
私、ロリコンはちょっと…」

「成長したかすちゃんOKだったんだから
ロリコンじゃねぇだろ。…それも分かった
上でそんな言い訳してんじゃお前ホントは
ちょっと惹かれてたんじゃねぇの?」

「げげ…そう来る? ………んー…??
そうなのかなぁ? そりゃヒロは一途だし
真面目だし? なんせα様だしね、…とは
思うけど…清花があんなにヒロには絶対
惹かれまいとブレーキ踏んでたの見てた
のに今更自分が!とは思えないかなぁ。」

「あー、ソレは分かる。
…清花、やっぱそーだったんだ?」

「んー、そりゃあね。小野くんにも未練は
あったみたいだけど、あんな風にヒロの
誠実さ見せられちゃ…そりゃグラッとも
クるんじゃない?」

「いー男だよなぁ、アイツ。俺なら幾ら
友達でも番とか責任重過ぎて無理。
でもヒロの奴、清花噛んでからも飄々と
してたじゃん。あれカッコ良かったけど
なぁんか痛々しくてさ。清花は清花で
全然普通に接してるし、アレ見てて自分に
惚れてない女、嫁(番)にするってどんな
気持ちだ?って一時期めっちゃ考えた。」

「ちょ…っ、あれは清花は清花ですっごく
ヒロに申し訳なく思ってたからこそ!の
態度だったんだからね?! 」

「わっ、分かってる、分かってるよ!
…だからっ、そんなの見て来たからっ、
今の、あのアイツらのイチャつきが俺には
何とも幸せに感じたんだって…っ」


清花の事になると…死んで何年経っても
今も側に居るみたいに反応する莉子に
少しだけ心を痛めながら、タケシはその
ムクれてプイッと横を向く、でもいつも
凛としてる横顔を見つめた。


「…でも、安心したろ?」


思わず自分でも思った以上の優しい声が
出ていた。この隣を歩く幼馴染みが…
どれだけ清花に心を砕き、親身に世話を
焼いていたか知ってたから。
今ではその妹の花純を同じく心配して
世話を見てはいたけれど、清花に対する
ものとはやはり何処か違っていて一線を
引いている気がするのは…ヒロの存在が
あったからだろう。

妹のように、でもそれ以上に宝物のように
真綿で包んで卵を温める親鳥の如く花純を
大事にしてたヒロ。世話焼きで兄貴肌で
リーダーだった俺らの友人は今やっと…
本当の意味で春を見つけたのだ。決して
苦労ばかりの凍てつく冬では無かったに
せよ、やっと芽吹いたヒロの春。

咲き綻び始めた花純。
匂い立つヒロの唯一の花。


Ωとかαの苦労は…正直βの俺にはやっぱ
よく分からないけれど、アイツらがああ
やってデレて笑って幸せそうにしてんなら、
それはそれで大団円だと思うのだ。

花純の次の発情期までがどのくらいかは
分からないけど、あの分だと結構スグに
来そうな気がする。

そしたら、やっとだ。


それ位 かすちゃんは…ヒロを見上げ、
ヒロだけを見つめてβの俺でも分かる程
甘ぁい匂いをさせていた。

Ωフェロモンの凄まじさは(ベータ)には全然
分からないけど、仄かに感じただけでも
あんなに甘く芳しい匂いなら、ちょっと
俺も酔わされてみたい。

かすちゃん、Ω云々抜きにしても普通に
女子として可愛いし。


…ンな事、アイツに漏らしたら
とんでもねぇ事になりそうだから絶対に
口を滑らせても言わないけどな。




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