一往深情

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アラガミの少女をアナグラへと連れて帰ってから一夜が経った。

アナグラにいる人間は、誰もそのことを知らずにいつも通りの日常が流れる。

第一部隊の面々とサカキを除いては。


「アラガミがアナグラにいるってさ……よく考えたらおかしくね?
ってーか……バレたら俺たち犯罪者じゃね?」

『確かに……。
でももう手遅れじゃん?』

「そ、そうだよな……。
後戻りはできないんだよな…。」


コウタが声を潜めて話しかけてきた。

むしろこうやってこそこそ話している方が怪しいのではないかと思う。

誰も気にしていないのが幸いである。


『とにかくバレないようにいつも通りふるまうしかないって。』 

「う……。
そのいつも通りってのが難しいんだって。」

『大丈夫だいじょうぶ。
深刻そうな顔してなければいいんだって。』

「そうはいってもな……。」

『気持ちはわかるけど。
気分転換に任務でも行って来たら?』

「……そうする。」


いまいちコウタの様子は怪しいが、うっかりしゃべったりすることはないと信じたい。

ふわふわとした足取りでヒバリの元へ向かうコウタを見送ると、ユイはサカキの研究室へ向かうことにした。

昨日の今日で、あの少女がどうしているのか心配になったのだ。

知らない人間に知らない場所につれてこられ、心細くはなっていないだろうか。


何かお土産を、と思いターミナルからこの前手に入れたシユウの素材を取り出す。

嫌いだったら申し訳ないけど。

素材を上着のポケットに入れながら、エレベーターに乗り込んだ。


『あれ。』

「あ?」


ポケットしか見ていなかったため、エレベーターに先客がいることに気付かなかった。

というか、彼も今まさに乗り込んだといったところだが。


『ソーマさんだ。今からどこに?』

「……部屋に戻るところだが。」


しめた。道連れにしよう。


「なんだニヤニヤして。気持ち悪いな。」

『失礼な。
これでも一応乙女ですよ。』

「乙女だ?」

『乙女で悪いですか。
じゃなくて、ちょっと付き合ってくださいよ。』


ベテラン区画のボタンを押そうとするソーマの手を掴む。

押させない。そこでは降りさせない。


「どこにだ。俺は部屋に戻ると……。」

『だめですー。』

「やめろ、離せ。
どこに連れていく気だ。」


どうにかして部屋に戻ろうとするソーマと、研究室へ連れて行きたいユイの攻防はすぐに決着がつくこととなった。





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