一往深情

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あれから一夜。

夢だったのではないかと、朝起きて何度も頬をつねった。

痛かった。


赤くなった頬をさすりながら、ユイはロビーへと降りたのだった。


『付き合うっていっても……どうすればいいんだ………?』


誰かと付き合ったことなんて人生で一度もない。

世のカップルは何をしているのだろう。

サクヤとリンドウは、お互いの部屋を行き来していたようだけれど。

ターミナルにアクセスしながらぼんやりと考える。


『うーん………。
ソーマさんの部屋行ってみるか………?』

「何しに来るんだ。」

『いや、なんていうか、ただ知りたいなって………ん?』

「お前が好きそうなものは何もないんだが。」


今誰かと会話しなかったか?

ぐりん、と勢いよく振り返る。


『ひっ!?
そ、ソーマさん……。』

「なんだ。」

『お、おはようございます。』

「ああ。」


誰もいないと思っていたそこにはソーマがいた。

早鐘を打つ心臓を無視し、ターミナルへ視線を戻す。


『あの……い、いつからそこに?』

「付き合うってどうすればいいんだ、とか言ってたあたりから。」

『最初から!!聞かれてた!!』


ターミナルに手をついてうなだれていると、後ろからソーマが鼻で笑うのが聞こえた。

さすがにそれは少し傷つく。

純朴な乙女の悩みだぞ。


「どうすればって、お前はどうしたいんだ。」

『と、言われましても。』


うーん、と視線を宙に彷徨わせ考える。

どうしたい、か。

ちら、と首を少しひねって横目でソーマを見る。

ぱちりと目が合った。


『うわ。』

「なんだ。」

『い、いえ別に……。』


ぶわっと顔に熱がこもる。

この人が彼氏になったのだと改めて思うととても照れる。

そういえば、昨日は自分からくっついたのだった。

恥ずかしすぎる。


『じゃ、じゃあソーマさんは?』

「何がだ。」

『し、したいこと?とか?』

「……………………別に、言うほどのものはない。」

『なんか間がありましたけど。
実はあるんでしょ。』

「…………。傍にいるだけでいい。」

『そッ……。そうですか。』


二の句が継げなくなり、黙り込んでしまった。

ソーマもそっぽをむいてしまっている。

なんだこれ、恥ずかしい。


『わ、私任務行ってきますね。』

「それなら俺も行く。」

『一緒に?』

「いやならいい。」

『そんなことないです。行きましょう!』


ソーマがいれば百人力、とまではいかないが。

的確に討伐していくしリンクエイドはとても早くて助かる。

ふたり連れ立って出撃ゲートをくぐった。





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